文・三上 太 写真・安井 麻実
NBL最後のシーズンとなる2015-2016シーズンのファイナルは、最終第5戦で東芝ブレイブサンダース神奈川が76‐70でアイシンシーホース三河を振り切り、NBLラストチャンピオンに輝いた。
3戦先勝方式でおこなわれるNBLファイナルは、第1戦、第2戦とアイシン三河が連勝し、王手をかけた。しかしそこから東芝神奈川の反撃が始まる。第3戦でエースの#14辻 直人が30得点の活躍を見せると、中4日を置いた第4戦ではもう一人のエース、#22ニック・ファジーカスが30得点をあげて、2勝2敗の五分に戻す。
迎えた第5戦、序盤からリズムをつかんだ東芝神奈川に対して、アイシン三河も終盤に怒涛の反撃を見せて3点差に迫ったが、残り27秒、シュートクロックも残り1秒というギリギリの場面で辻が3ポイントを沈めて勝負を決めた。
プレイオフに入り、ファイナル第2戦まで負けなしの6連勝だったアイシン三河と、クウォーターファイナルこそ連勝で終えたものの、セミファイナルのリンク栃木ブレックス戦、ファイナルとともに“崖っぷち”に立たされながら、盛り返して勝利をつかんだ東芝神奈川。その差はどこにあったのか?
端的に言えば、チーム力の差だろう。
もちろん敗れたアイシン三河にチーム力がないわけではない。セミファイナルのトヨタ自動車アルバルク東京戦や、ファイナルの第1戦など苦しい時間帯に我慢し、最後は自分たちのペースに引きずり込む。その瞬間での爆発力。これはアイシン三河のチーム力がなせる業だった。
しかしファイナル第3戦以降の彼らは、あまりにも“個”が目立ちすぎた。ベテランの#3柏木真介は第4戦が終わった後から、そのことをずっと口にしている。#6比江島 慎、#14金丸晃輔、#0橋本竜馬……アイシン三河の中心メンバーであり、日本代表の中核さえ担う選手たちの能力は、東芝神奈川のそれに比べると間違いなく高い。少なくとも柏木はそう見ている。だから「一人でやっつけてやろうというイメージでやっている。そこがよくない」と言うのだ。「いくらいい選手が集まっても、バラバラだと勝てない」。
もちろん第4戦に関しては、柏木自身もベテランらしからぬミスを繰り返し、チームの崩壊を食い止められなかった。自らのミスと認めたうえで、第5戦のすべてが終わった後に、再び重たい口を開いた。
「チームではなく、個の活躍が目立つ。それが(敗因の)すべてでしょうね。個の力がある分、それぞれで打開しようと思ってプレイしている。でもそれってファイナルで始まったことではないんです。シーズン中もそうした悪い経験をたくさんしてきたなかで、最後のファイナルで気合が入ったところにまたそれが出てしまった。それをチームとして修正できなくて、最後の最後まで個で戦っているように感じました」
レギュラーシーズンで味わった多くの負けを糧に、アイシン三河はチャンピオンの一歩手前まで負け知らずで勝ち上がってきた。しかし1つの敗戦をきっかけに、勝っていたときには気づかなかった面が綻びとなり、彼らに最後の一段を登らせなかった。先行逃げ切りも、追い上げ逆転も可能なアイシン三河の強さは、しかし、砂上の楼閣だったわけだ。
一方の東芝神奈川は、愚直なまでに自分たちのスタイルを貫いた。状況が悪い中でも第2P、第4Pの出だしにはセカンドユニットを使い、主力を休ませる。北 卓也ヘッドコーチは「控え選手はウチのほうが豊富。彼らも自分たちの役割をわかってくれていて、黒子に徹してくれる。そういう見えないところのプレイで貢献してくれた選手がウチにはたくさんいるんです。そこはチーム力の差です」と自信を持っていた。
#0藤井祐眞、#5山下泰弘、#9栗原貴宏、#43永吉佑也……彼らだけでなく、スタメンで出ている#25ジェフ磨々道や、北ヘッドコーチが「ファイナルで一番の働きをした」と言わしめた#33長谷川 技。辻、ファジーカス、そして司令塔の#7篠山竜青に目が向けられがちだが、彼ら黒子たちの存在が東芝神奈川をチームたらしめた。
そこには欠かせない重要なミーティングがあった。3月中旬、東芝神奈川の選手たちは、選手たちだけのミーティングを練習前の2時間近くを割いて、おこなっている。
「主に話したのはニック(ファジーカス)とマドゥ(磨々道)。プレイオフを勝ち抜くために変えるところや成長するところといった話をメインに、練習や試合に臨む気持ちの持ち方や、迷っている選手が『こういうときはどうしたらいい?』という質疑応答まで、内容の濃いミーティングでした」
そう言うのは「議長であり、書記」のキャプテン・篠山。
もう少し詳しいことをファジーカスに確認すると、彼はこう教えてくれた。
「ボクは控えのメンバーに自信をつけたかったんだ。ミーティングをするまでは、特に若いメンバーがチームプレイをよくわかっていなくて、チームでアタックしても、シュートを打てるところで打たないゲームが多かった。みんなシュートを決める力を持っているのに。だから『チームとしてシュートを決めよう』という話をして、何人かにははっきりと『シュートを打つべきだ』とも伝えたよ。自信を持って打ってほしいってね。そこからチームのオフェンスが変わっていった。間違いなくあのミーティングから得点力は上がっていったんだ」
第3戦で辻が30得点し、第4戦でファジーカスが30得点をしているが、彼らのその得点だけで勝てたかといえば、そうではない。第3戦の山下の8得点や、第4戦の藤井の8得点、長谷川の10得点は間違いなくアイシン三河を苦しめた。ロールプレイヤー、ベンチメンバーの地道な得点が、東芝神奈川を2年ぶり2度目(NBLとして)の頂点に導いたといっても過言ではない。
ファイナルは第5戦までもつれる白熱した展開となった。最後の最後でその勝敗を分けたのは、チームの積み上げ方ではなかったか。片や突出した個の力をチームとして昇華させきれなかったアイシン三河と、片や突出したエースが若手にアドバイスを送ることで、さらにチーム力を上げていった東芝神奈川。改めてチームスポーツのおもしろさと怖さを知ったNBL最後のファイナルだった。