文・松原 貴実 写真・安井 麻実
5月13日からスタートしたNBLプレーオフクォーターファイナルは、レギュラーシーズン1位のトヨタ自動車アルバルク東京―千葉ジェッツ(8位)、2位のリンク栃木ブレックス―三菱電機ダイヤモンドドルフィンズ名古屋(7位)、3位の東芝ブレイブサンダース神奈川―レバンガ北海道(6位)、4位のアイシンシーホース三河―日立サンロッカーズ東京(5位)が2戦先勝方式で対戦し、それぞれランク上位チームがストレート勝ちでセミファイナルへ駒を進めた。
レギュラーシーズンで最後まで4位を争ったアイシン三河と日立東京は注目の対戦となったが、2戦ともにアイシン三河が僅差で勝利。出だしから終始アイシン三河の背中を追いかける展開となった第1戦とは異なり、第2戦は3Qまでは52-48とリードを奪った日立東京だったが、4Q残り4分に#6比江島慎の3Pシュートで60-60の同点にされると、ゲームの流れを再び呼び込むことができないまま逆転負けを喫した。この大一番に主力である#42ジョシュ・ハイトベルトが欠場したことは、高さがアドバンテージの日立東京にとって不運と言えたが「その状況で選手たちは全力を尽くしてくれた」とマイケル・オルソンヘッドコーチは選手たちを労った。
そして、もう1つ予想外の激戦となったのはトヨタ東京―千葉ジェッツだ。ヘッドコーチの交代劇などもあり今シーズンは自分たちの力が出し切れない印象が強かった千葉ジェッツはプレーオフ出場権こそ手にしたもののレギュラーシーズンの成績は22勝33敗。対トヨタ東京(47勝8敗)は5戦全敗で、最後の対戦となった5月7日も87-54の大敗に終わっている。「レギュラーシーズンとプレーオフは別物」ということばが真実だとしても、この対戦に関しては、トヨタ東京有利は揺るがないものに思われた。
しかし、迎えた第1戦、千葉ジェッツはケガと体調不良でコートを離れていた#25荒尾岳、#11西村文男が先発メンバーに顔を揃え、スタートから気合いの入ったプレーを見せる。「正直、チームと一緒になって調整できたのは2回ぐらいだったので、勝負勘を取り戻すには試合の前半からガンガン行くしかないと思っていた」という西村を筆頭に積極的な攻めでトヨタ東京の守りを揺さぶった。前半を30-32の2点ビハインドで折り返すと、赤く染まった応援団席からは「いける!いける!」の歓声が沸き起こる。
その声に応えるかのように後半に入っても千葉ジェッツの集中力は途切れなかった。トヨタ東京に傾きかける流れを激しいディフェンスで何度も押し返し、2分14秒には#12岡田優介の3Pシュートで68-62とリードを奪う。しかし、ここで奮起したのはトヨタ東京#4ジェフ・ギブス。フィジカルの強さにものを言わせ、バスケットカウントも含め1人で連続7得点を稼ぎ、68-69とゲームをひっくり返した。この時点で残り時間は47秒。千葉にはまだ再逆転のチャンスが残されていたが、それまで17得点、4アシスト、5スティールの活躍でチームを引っ張ってきた西村がここで痛恨のターンオーバー。最後に流れをつかんだトヨタ東京は4本のフリースローも着実に沈め68-73で千葉を振り切った。
だが、千葉ジェッツの“挑戦„は翌日も続く。無念の敗戦から18時間後に迎えた第2戦では、スタートから4連続3Pでリードを奪ったトヨタ東京に食らいつき、2Q開始直後に#22上江田勇樹の3Pで逆転すると、前半33-30と前に出る。が、3Q6分、ゴール下で終始身体を張り、前日の試合では10リバウンドをマークした荒尾が足を痛めて退場。この機を逃さなかったトヨタ東京は一気に攻め立て、逆に5点のリードを奪って最終Qに突入した。
「今までだったら緊張の糸が切れてしまっていたかもしれない。でも、今日は違った」(西村)。懸命にトヨタ東京の背中を追い、詰め寄り、残り2分には68-70。ここでファウルとベンチテクニカルによるフリースローがトヨタ東京に与えられ、68-72とされるも1分18秒、#5リック・リカードのフリースローで70-72、53秒には同じくリカードのジャンプシュートで72-72の同点に追いついた。40秒、トヨタ東京#0リチャード・ソロモンがゴール下で押し込んだシュートがバスケットカウントとなり、一投を沈めて72-75。だが、千葉はその直後にチャップマンがフリースローを得て74-75と食い下がる。そして、残り7秒、攻撃権はトヨタ東京。果敢にスティールを狙った西村のプレーがファウルとなり、トヨタ東京にフリースローが与えられる。#16松井啓十郎がこれを落ち着いて2本沈めて74-77。起死回生に懸ける千葉の最後の攻撃はボールを手にした西村をダブルチームで守ったトヨタ東京に阻まれ、ラストシュートが打てないままゲームセットとなった。
2連勝はしたものの、ともに苦戦を強いられたトヨタ東京。「プレーオフということで、うちが硬くなっていたことは事実です。それに加え千葉は失うものは何もないという気迫で向かってきた。8位とはいえ、もともとタレントが揃った能力が高いチームであり、その勢いを前にしてうちが受け身になってしまったことは今回の反省点です」と、語る伊藤拓摩ヘッドコーチの顔にはうっすら安堵の色もにじんだ。だが、プレーオフのタフな戦いはこれからも続く。「そういった意味では、こういう戦いを早く(クォーターファイナル)経験できたことはよかったと思います。また気を引き締め直して次に向かいます」
《千葉ジェッツのコメント》
■佐藤博紀ヘッドコーチ代行
僕がヘッドコーチ代行になってから、改めてこのチームが秘めている力をずっと感じていました。勝てるチャンスがあった試合に勝ち切れなかったのはコーチとしての僕の責任でもありますが、最後までチームとして戦い抜く姿を見せられたことはよかったし、評価できることだと思っています。
■#34小野龍猛キャプテン
最後にジェッツらしいパフォーマンスを見せられて、チームとしては力を出し切ったと感じています。ただ個人的にはコンディショニングがまったくダメで、エースとして求められる得点面で貢献できませんでした。自分のパフォーマンスに対しては反省しかありません。
今シーズンは最初からヘッドコーチの色に自分が合わせることができず、キャプテンとしても責任を感じましたが、もともと高いポテンシャルを持ったチームであると信じていましたし、この2連戦ではそういう姿を少しはファンの皆さんに見せられたのではないかと思っています。
■#11西村文男
これまでにないぐらいタフなゲームで(勝てなかったことは)すごく悔しいです。トヨタは今シーズン1度も勝ったことがない相手だったので、それだけに初戦が大事だということは誰よりもわかっていたつもりですが、最後の最後で自分のミスが目立ってしまいました。自分たちはチャレンジャーだし、負けても落ち込むことはなく次の試合に向けてみんな切り替えていましたが、僕は責任を感じて少し引きずりました。でも、いざ今日の試合が始まると、トヨタに流れが行きそうになっても我慢して、いつもならキレやすい選手も耐えて、耐えて、プレーに集中できていたので、(今日は)いけるかもしれないという思いもありました。そこを勝ち切れなかったのは力の差だと思っています。僕たちは今日の最後の7秒、昨日の40秒、勝敗を分ける1番大事な場面でどう戦うか徹底できなかった。そこにトヨタとの組織力の差が出たと思っています。
■#12岡田優介
両日ともに勝てるチャンスはあると思っていましたが、そこで勝てなかったのは(レギュラーシーズンに)積み重ねてきたものの差が出たのかなと感じています。最終的に勝った方が強いチームだと思っていますから。残り3分ぐらいからもっといい戦い方ができれば十分倒すチャンスはあったんですが、今の自分たちの力ではあれが限界だったかもしれません。そう思うと悔しいですね。
コートに出るときはKJ(松井啓十郎)や(田中)大貴とマッチアップするので、彼らに気持ちよくシュートを打たせないこと、毎回、毎回タフショットを打たせることを心がけてプレーしていました。もちろん、勝負どころでのシュートは打っていこうと思っていましたが、入りはディフェンスからという気持ちが強かったです。
うちのチームのポテンシャルはレギュラーシーズン8位で終わるチームだとは思っていなかったので、その力というか、意地をこの2戦で見せられたのはよかったと思います。でも、組織力、集中力、メンタルの部分を考えたら。まだまだ優勝できるチームではなかったことも事実。それを真摯に受け止めて次に繋げていきたいと思います。
レギュラーシーズン1位と8位、対戦成績5戦5敗のトヨタ東京を苦しめた千葉ジェッツの戦いぶりはアップセットこそ叶わなかったものの『プレーオフは別物』ということばを改めて思い出させるものだった。今週末のセミファイナルではどんな戦いが繰り広げられるのか。両カードともに熱戦を期待したい。
■NBL PLAYOFFS SEMI FINAL
《トヨタ東京 vs アイシン三河 @国立代々木競技場第二体育館》
5月21日(土)15:00 試合開始(13:30開場)
5月22日(日)15:00 試合開始(13:30開場)
5月23日(月)19:00 試合開始 (17:30開場)
※2戦先勝方式のため、3戦目は開催がない場合があります。
《リンク栃木 vs 東芝神奈川 @ブレックスアリーナ宇都宮》
5月21日(土)15:00 試合開始(13:00開場)
5月22日(日)15:00 試合開始(13:00開場)
5月23日(月)19:15 試合開始 (17:45開場)
※2戦先勝方式のため、3戦目は開催がない場合があります。
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