ファイナルも終わり、女子バスケの注目はオリンピックへ……今さら(!?)かもしれませんが、改めて“素晴らしかった”WJBLオールスターのレポートをどうぞ!
Text by Akihiko Yoshikawa
国内トップリーグでありながら長らく行われていなかったWリーグのオールスターゲームが復活した。実に13年ぶりの開催である。舞台は、新潟アルビレックスBBラビッツのホームコート、アオーレ長岡。
個人的には、男子の新潟アルビレックスBB(TKbjリーグ)を旧JBL時代から取材しており、スタッフやブースターには知り合いも多い。たとえば、ゲームMCを務めたMC SEKIは男子チームが創設された2000年からという旧知の間柄であり、この試合に来場されていた中野秀光bjリーグ社長(長岡からほど近い小千谷市出身)も10年来の付き合いである。したがって、この記事の中で若干新潟寄りの視点になる部分もあるかと思うが、何卒ご容赦願いたい。
さて、13年ぶりということで気になるのは、ゲームがどのような展開になるのかということ。今回の出場者で過去にオールスターを経験しているのは矢野良子(トヨタ自動車)ただ1人であり、その他の選手で13年前に現役だったのも三谷 藍(富士通)だけ。オールスターの雰囲気を知らない選手たちが一体どういうプレーを披露するのか?(実は、旧JBLのオールスターがあまりにも間延びした感のあるプレーだったため、もう10年近くJBL~NBLのオールスターはスルーしている)。今回のWリーグオールスターが同じような展開になってしまわないよう祈りつつ、長岡へと向かった。
■新星登場! 大盛り上がりのSkills Challenge
会場に到着したのは正午過ぎ。3ポイントコンテストは既に終了(富士通・山本千夏が優勝)し、スキルズチャレンジの真っ最中であった。
ちょうど名前を呼ばれたのは本川紗奈生(シャンソン化粧品)。しかし、コートに立っている選手は黄色いユニフォーム姿。コートサイドリポーターを務めたものまね芸人こにわも「本川さん……ですよね?」と思わず確認(もちろん松岡修造口調)。そして、その後に登場した吉田亜沙美(JX-ENEOS)はピンクのユニフォームを着用。2人はユニフォームを交換してスキルズチャレンジに臨んだのである。
過去にジャパンエナジー(現JX-ENEOS)の浜口典子とシャンソンの永田睦子がやはりユニフォームを交換してゲームに出場していたのを思い出した。オールスターならではの遊び心といっていいだろう。
ちなみに結果は、本川と渡邉亜弥(三菱電機)が決勝に進み、最後は0.01秒差で本川が制した。デモンストレーションで参加した新潟アルビレックススクールの西方心美さんが予選で2位にあたる好タイムをたたき出したことも付け加えておきたい。
■ダンス! ダンス! ダンス!
試合前のアップ中にも、オールスターらしい面白い光景が見られた。場内に流れていたアップテンポなBGMに合わせて、WESTの馬瓜エブリン(アイシンAW)がリズミカルなダンスを披露したのである。MC SEKIも「いいですね、馬瓜選手。素晴らしい!」と絶賛。アップ中の1シーンをしっかり拾い上げるところが、バスケMCの草分け的存在であるMC SEKIの面目躍如といったところだ。
別の曲に切り替わっても、周囲の選手は馬瓜にダンスをリクエスト。本人は「もういいよ」とばかりに手を横に振るが、イントロからAメロに入った瞬間、再度キレのあるダンスを開始。一度拒否しておくあたり、笑いのツボを心得ている。アップの時間に限れば、MVPは馬瓜で決まりである。
■Tip offから見どころ満載の“オールスター”
川淵三郎JBA会長による始球式を終えると、いよいよ本番。EASTの193cm渡嘉敷来夢(JX-ENEOS)に対してWESTは170cmの大神雄子(トヨタ自動車)がジャンプボールに挑む。
渡嘉敷のゴール下でEASTが先制すると、吉田が普段あまり打たない3ポイントを連続で決める。2分間無得点のWESTは高田真希(デンソー)と本川をコートに送り出し、残り7分13秒にその高田のドライブからのレイアップでようやくWEST初得点。そこからWESTがベンチスタート組で反撃に出るが、EASTも三谷の3ポイントなどで応戦し、第1ピリオドは20-13。
続く第2ピリオドはWESTのオフェンスから。ボールを運ぶ大神に対して、渡嘉敷がマークにつく。これまたオールスターならではだ。怪我で出場辞退した町田瑠衣(富士通)に代わってスターターを務めた出岐奏(新潟)が3ポイントで初得点を挙げ、EASTがリードを広げる。WESTも王新朝喜(三菱電機)の連続得点で追い上げるが、再び出岐が3ポイントを決めて突き放す。出岐はさらにもう1本3ポイントを決めて、このピリオド9得点。これがそのまま両チームの得点差となり、39-30で折り返す。
第3ピリオドに入ると、渡嘉敷が高さを発揮して得点。マッチアップしていた馬瓜も負けじと1on1を仕掛ける。コンタクトプレーの際には渡嘉敷が「押された」というジェスチャーで審判にアピールするなど、このマッチアップも今回の見せ場のひとつとなった。
このピリオドのもうひとつの見せ場は三谷の3ポイント。この日の4本目を決めて、MVP争いで一歩前に出た。WESTも大神のブザービーターポイントで食らいつき、10点差。
最後の10分、序盤は本川と出岐の点の取り合い。本川が速攻レイアップ2本を皮切りに8得点を挙げれば、出岐も三谷に並ぶ4本目の3ポイントを含め9得点。得点はわずかに出岐が上回ったが、2人の取り合いの間に栗原三佳(トヨタ自動車)も3ポイントを沈めたWESTに勢いが出る。アウトサイドシュート好調の大神の活躍で追い上げ、対するEASTは渡嘉敷がフィニッシュしきれない場面が続く。
残り2分13秒で2点差となり、EASTはたまらずタイムアウト。タイムアウト明けに渡嘉敷がまたもシュートを外し、WESTは絶好のチャンス。しかしここで山本が値千金のスティール。吉田が速攻を決めて逆にWESTがタイムアウトを取る。
しかし、EASTが篠崎澪(富士通)の3ポイントで突き放し、WESTは渡邊が吉田のファウル(4つ目)を誘いながらドライブをねじ込むものの、ボーナススローをミス。
残り1分を切って点差は「5」。大神が、マッチアップの吉田に対してファウルゲームに打って出る。WESTのチームファウルがまだ5個に達しておらず、大神は審判の目の前でアピールしてまでファウルを重ねる。大神と吉田が揃って審判を見つめ、一瞬の静寂の後に「ピッ!」。客席からも笑いが起きる。審判も心得ている。
ようやくフリースローとなり、吉田はしっかりと2本成功。最後のオフェンスで大神は自身の3ポイントに賭けるが、先ほどまでスパスパ入っていたのにまさかのエアボール。85-78でEASTが逃げ切る形となった。
■地元ファンの声援に応え、MVPは新潟・出岐
MVPに輝いたのは、この日18得点の出岐。地元開催でインパクト十分の活躍を見せ、結果的に最下位に沈んだ今シーズンの新潟にとって唯一の明るい話題となった(「唯一」というのが残念でならない。出岐は同じ長崎生まれとして注目している選手であり、本人にとっても“私”にとってもエポックメイキングな出来事だ)。
また、MIPは両チーム最多の21得点をマークした大神。こちらも文句なしの受賞だ。他にも三谷や本川、渡嘉敷などアジアチャンピオンとリオ五輪出場権を勝ち取ったメンバーを中心に、選手たちの本気”を随所に見ることができた。試合終盤に双方がタイムアウトを取ったことでもわかるように、どちらもただのお祭りで終わらせず、勝ちにいく姿勢を見せたのは素晴らしかった。
普段は見せないパフォーマンスだけでなく、「トップ中のトップの技術」を披露するのもオールスターの本来あるべき姿。本川のキレッキレのドライブと、馬瓜のキレッキレのダンス。どちらもオールスターで見たかったものなのだ。そういう意味では、今回のオールスターは非常にクオリティの高いものだったと思う。来シーズン以降も開催されることを期待している。
※3月24日(木)発売予定の『BASKETBALL SPIRITS』vol.8では写真をメインにレポートを掲載しています。