B1初挑戦となった昨シーズンを19勝41敗、東地区6位で終えた越谷アルファーズに激震が走ったのは、多くのBリーグファンが知るところだ。リーグからの制裁により、越谷は安齋竜三ヘッドコーチ不在で3カ月を過ごさねばならない上、その3カ月は今シーズン開幕後にまでまたがっていた。
その間、代行として指揮を執ったのは藤原隆充アシスタントコーチ。デマーカス・ベリートップアシスタントコーチの存在により、「個人的には、彼をサポートする形でいくのかなと思っていた」という藤原ACは、クラブからメインコーチという肩書で代役を打診されたことを「青天の霹靂」と受け止めつつも、「これは誰しもがもらえるチャンスではないので、しっかりやりきらなきゃいけないなと感じましたし、責任もすごくある中で、幸せな環境にいるんだなということも改めて感じました」と覚悟を決めて引き受けた。
「断るのもカッコ悪いし、そうすると逃げ癖がついてしまう。結果なんて誰がやってもわからないんだから、チャンスがあるんだったらチャレンジすべきだと思いました。安齋がこの先どうなるかはわからないですけど、あれだけのコーチだし、僕個人としては彼に戻ってきてもらって、また一緒に戦いたい。そういう想いも含めて、僕にできることはしっかりやっていきたいと思いましたね」
2019年に現役を退き、コーチとなってからも「HCをやりたいとは思ってなかった。大変な仕事だし、自分には全うできないと思ってたので」ということだが、思いがけずチャンスが訪れたことで意識に変化が生じた。
「いざやってみたらめちゃめちゃストレスはあるけど、めちゃめちゃ楽しいとも感じてます。僕は事前完璧主義者なので、準備して準備してようやく挑戦するというふうに今までやってきたんですけど、完璧な準備ってなかなかないし、そうするといつになっても挑戦できない。こうやって急に話がきたときに、そこでチャレンジして学んで、いろんなものを拾って進んでいかないといけない。そこは完璧ではなく野蛮にやっていくことが人生には必要なんだなって、今は思ってます」
本人のコメントにもあるように、藤原ACは安齋HCが復帰することを望み、それを前提にチーム作りを進めた。安齋体制となってからの2シーズンで積み上げた土台を大きく動かすことはできない、そんな考えを持ちながらも、HC業はやはり簡単ではなく、越谷はシーズン開幕から4連敗を喫した。
「彼とは3年目になりますが、過去の2年間を振り返りながら、『彼だったらどうするんだろう』ということを考えて、彼が戻ってきたときに全く違うことをやってないようにということは常に頭の中に置いてやってます。その中でも自分らしさというか、彼には表現できないことを表現していかなきゃいけないと思うんですけど、正直ものすごく難しいです」
10月11日、開幕3試合目にあたるアルティーリ千葉戦の試合後には、「お客さんが最後まで見ずに歩いてるのが一瞬目に入った」と明かした。日本におけるプロバスケットボール選手のパイオニアの1人とも言える存在だった藤原ACにとって、それは最も見たくない光景だった。
「現役の頃からそうなんですけど、勝っても負けても『見に来て良かった』と思ってもらうのがプロだと思うので、つまんないって思わせてしまった、途中で帰らせてしまったというのが……。この選手たちを最後まで応援したい、もっとプッシュしようと思ってもらえるようなバスケットをしないといけないと思うし、選手にも僕にもその責任がある。申し訳ないという気持ちがすごく強いです」
ただ、指揮官の権限を託されたことで、個人のコーチとしての学びは大きなものがあった。戦術の選択や選手起用など全ての最終決定権を持つHCと、個々の役割が分担されるその他のコーチとでは必然的に視点も異なる。HCをサポートする経験しかなかった藤原ACには、サポートされる側に回って初めて見えたものがあった。