バスケットボール競技人口619,823人。
この数字が誇るようにバスケットボールを競技として愛する人は多くいます。ですが、この競技者たちがトップリーグやプロリーグを目指したり、積極的に観戦しているかといえば、必ずしもそうではないわけで──。
先日、アメリカ旅行中にジョージ・ワシントン大学の試合を観戦しました。ゴール裏やベンチ裏で熱狂的に応援している学生たちについて渡邊 雄太選手に伺ったところ、「水球部や他の部活の選手たちが応援に来てくれます。僕もオフシーズン中は他のスポーツを応援に行きました」と言っていました。では、日本にいた時も同じように他の部活動を応援したり、地元香川県にある高松ファイブアローズを観戦していたのでしょうか?
「…それはなかったですね」
自然とスポーツを観る環境に身を置いてることに、彼自身が驚いていました。
週末、国内プロ&トップリーグを観に行く道すがら、チーム名が入ったバスケウェアを来ている中高生や、バスケットボールを携えた大人の方々とよくすれ違います。観ることよりも自分たちのチーム練習や試合が週末はあるために、約62万人いる競技者たちがなかなか観る側に移行していません。
「一度で良いから試合を観に来て欲しい」と訴えるプロ選手に、「では、学生時代に観に行きましたか?」と問えば、渡邊 雄太同様、言葉を詰まらせる選手も多くいます。逆に外国人選手や留学経験を持つ選手を他会場で見かける機会もあります。それが、スポーツを観る文化の違いなのでしょう。
“悔しい”感情を伴うスポーツ観戦
8日間のアメリカ滞在中、NBA2試合、NCAA2試合、NBA Dリーグ1試合、計5試合を観戦。ジョージタウン大学79-57セントジョンズ大学戦以外、ホームの勝ちゲームを観ることはできませんでした。
ワシントン・ウィザーズ89-127クリーブランド・キャバリアーズ(キャブス)とニューヨーク・ニックス83-101キャブスの2試合は、どちらもロードのキャブスが圧勝。ホームチームがリードすること無き会場は、オープニング以外で盛り上がることが無いまま終了。
けっして安くはないチケットを買った方々は、どんな顔をするのだろう?という興味がわきます。
ウィザーズ 89-127 キャブス、38点差も開いたワンサイドゲームは、4Q開始早々に立ち上がり、帰路につく人が多くいました。2万人も埋まっていると帰り道が混み合うことを嫌い、勝っていても席を立つのはアメリカではよく見られる光景です。最後まで残った方々は、コートや大型ビジョンを背に記念撮影を撮ったり、思いっきり悔しがったりしながら、様々な表情を見せていました。
「NBAの場合はそれぞれが勝手気ままに見ており、騒げる環境が正解。日本もそうなって欲しいという希望はあります」
3月18日発売のバスケットボールスピリッツ vol.5にて連載がスタートするMC SEKI(関 篤)さんがこんな話をしていました。盛り上がりに欠ける試合ではありましたが、どの会場も終始ザワついていたのが印象的です。もしかすると、もうゲームとは違う話をしていたのかもしれませんが、その空間を個々に楽しんでいる様子でした。
かくいう私は20年来、ブレッツ時代からのウィザーズファン。この時の感情は“悔しい”の一言に尽きます。ニャロウ!怒
“良かった”、“楽しかった”、“うれしい”という感情は他のイベントやアミューズメントでも得られます。しかし、お金を払って観に行ったのに“悔しい”という感情を抱けるのもまた、チーム愛の特権であり、スポーツ観戦の醍醐味ではないでしょうか。
応援するチームと同じ感情になれることが大事。38点差で敗れれば悔しいですし、逆に38点差で勝っていれば笑いが止まらず、11ドルもするビールをさらに飲んで会場内での売上に貢献したことでしょう。接戦という偶然に賭けることなく楽しむ術が、チーム愛です。
チーム愛から派生したNBA体験ツアー
NBAでのチーム愛が功を奏し、思わぬ形を築く方もいます。
1989年、ミネソタティンバーウルブズがワォーンと誕生した時からウルブズ一筋の大野 光昭さん。HOOP誌でウルブズ愛を寄稿していることもあり、ご存じの方もいるでしょう。その大野さんがシーズンチケットホルダーとして足繁くミネソタに通ったことでウルブズ愛が認められ、今では日本とミネアポリスを継ぐアンバサダーと称されています。
その大野さんがコーディネーターとなり、ウルブズ協力の下、リンク栃木ブレックスの竹田 謙アンバサダーがコーチを務めるバスケスクール「クライムウッズ」が中高生向けミネソタNBAツアーをこの春休み(3月29日〜4月3日)に開催することになりました。これも大野さんの大きな功績です。
3月7日、8日には渋谷で説明会が開催されるようなので、お父さん、お母さん、ぜひお子様に早い時期からNBA体験させてみてはいかがでしょうか?
HOOP誌やNBA.COMでおなじみのイラストレーター西尾 瑞穂さんもまた、イラストという芸が身を助くように、ファンであるジャズをはじめとしたNBA選手との交流が盛んなのは羨ましい限りです。
そんな私も今回、ウィザーズホームゲームで良い思いをさせていただきました。現在はNBA体験ツアーが行われるウルブズのスポーツパフォーマンスディレクターとして活躍されている佐藤 晃一さん。その前は我がウィザーズのスタッフだったこともあり、懇意にさせていただいています。私がD.C.へ行くことを知るや否や、ホットラインでバックステージへと誘ってくれました。間近で観る選手たちに卒倒しそうでしたが、それ以上に試合が大差で負けて逆に前のめりにうなだれる始末…。
渡邊 雄太のジョージ・ワシントン大学も敗れ、来シーズンもマイホームD.C.へ“帰省”しなければならないと強く思ったのは言うまでもありません。
究極の楽しみ方は“家族愛”
ホームは“家”です。各チームがお客様を迎える“家”であり、ファンにとっては“我が家”と思える空間。そこで活躍する選手たちは家族なのです。
「好きになれば理屈抜きにお金を払ってくれるんです。テレビや雑誌などで見ることはできなくても、会場に行けば選手に会うことはできる。それが地域密着です。自分の子供にはお金を払うとの同じくらい、地元チームが近い存在になれるかどうかが大事です。そこまで行けば、例え負けたとしても、好きだから応援し続ける。子供が運動会でビリになったからといって、育てるのを止めよう、もう見ないとは思わないですよね。がんばっていれば、気持ちが伝わるプレイをすれば、やっぱり応援したくなります」
熱く話していただいたのは、3月18日発売のバスケットボールスピリッツ vol.5で小生の連載コラムの初ゲストとして迎えた元ハンドボール日本代表キャプテンの東 俊介さん。
(3月21日・22日に駒沢体育館にて、ハンドボール日本一決定戦となる男子日本リーグプレーオフが開催されますので、こちらもお見逃しなく!)
東さんの仰るとおり、我がウィザーズは息子たちが活躍する愛するチーム。負けても変わらず応援するし、グッズだって大量に買ってしまうんです。
日本にも同じように溺愛するチームがあります。それは日本代表!
日本人として切っても切れない縁がある日本代表は、どのカテゴリーも息子や娘のように応援してしまう大事な存在です。サッカーやオリンピックの他競技同様、日本代表からチーム愛を築く道もあるでしょう。
今回、久しぶりにNBAを生で観て思ったのは、日本のバスケも変わらずにおもしろい、ということでした。その答えは家族のように応援しているからかもしれません。
2016年新リーグ発足へ向け、今こそ平たいバスケ愛から脱却し、地域のチームを家族として迎えてみてはいかがでしょうか?
そんなきっかけになればと、3月18日発売のバスケットボールスピリッツ vol.5や本サイトでは多くの選手の声をご紹介しています。以上、vol.5へ向けた告知でした。
昨日、忌野清志郎さん(RCサクセション)のライヴを観ましたが、その中でとても印象的な言葉がありました。
「家にいるようにくつろいで、楽しんでください!」
「どうもありがとう。愛してます。また逢いましょう」
ホームってこんな関係なんだろうなぁ……。
泉 誠一