愛知県三河地方を中心に、全国各所で不定期に催される奇祭をご存じだろうか。
その名は「長野フェスティバル」。
シーホース三河、長野誠史による得点の豊作を祝う祭事である。
このお祭りは週末の午後や水曜の夜などに突如幕を開け、その場に居合わせた人々を熱狂させる。
その神出鬼没ぶりから地元住民にここ数年愛され、秋口から夏前までの期間、常に待ち望まれている一大行事だ。
だが今シーズンの長野フェスティバルは少々控えめな開催スケジュールだった。
主催の長野自身がシーズン途中で大きな怪我に見舞われてしまったし、そもそもチーム新体制への適応にも少なくない苦労があってのことだろう。
それでも彼のパフォーマンスが低下したとはまるで思わなかった。むしろ進化を遂げている印象すらあった。
爆発的な得点力こそ影を潜めていたがディフェンス能力の高さは健在で、ボール運びやディナイのシチュエーションで獲得するスティールとオフェンスファウルがチームを勢いづけた。
それに加えて今シーズンはゲームコントロール力の向上がめざましかったように思う。
ベンチスタートのPGはゲームの流れを把握する作業にまず苦心するものだが、試合途中で出てきた長野が選択するオフェンスは的確で効果が高く、ハーフコートオフェンスの精度を引き上げた。
自らが直接手を下すことなくチームを活性化させるその姿はシーホース三河の大レジェンド、佐古賢一氏や柏木真介をどことなく思い起こさせ、ヘッドコーチやチームスタイルがいくら変わろうとも伝統のようなものは脈々と受け継がれていくのだな、と感心させられる。
日本を代表するPGであった佐古氏、柏木ともに、類まれな攻撃性能を備えながらもチームが勝利するために自身の得点能力を調整する、絶大な視野を持った司令塔であった。
攻撃力、守備力ともにその資質を持ち合わせた長野が局所的に起こしてきたお祭りは今後、大きく規模を広げて「三河まつり」となり、その主催者が表に出ることなく開催頻度ばかりが増していくのかもしれない。
シックスマン賞は長野に譲るかたちとなったが、ベンチスタートの切り札でもう一人名前が挙がったのが河田チリジ(広島ドラゴンフライズ)。
彼がコートに入ることによってオールラウンダー2人+ビッグマンという適応性の高い、相手チームにとっては厄介な3ビッグラインナップが完成した。
河田自身も共にプレーする2人の外国籍選手を活かすだけでなく、リバウンド、ブロック、得点と直接的な結果を随所に残した。広島の外国籍選手は3人とももちろん優秀ではあるが、控えめに言っても彼の存在無くして広島の優勝は実現し得なかっただろう。
特になにかを受賞したわけでもないけれど、それだけは伝えておきたかった。
文 石崎巧
写真 B.LEAGUE
「Basketball Spirits AWARD(BBS AWARD)」は、対象シーズンのバスケットボールシーンを振り返り、バスケットボールスピリッツ編集部とライター陣がまったくの私見と独断、その場のノリと勢いで選出し、表彰しています。選出に当たっては「受賞者が他部門と被らない」ことがルール。できるだけたくさんの選手を表彰してあげたいからなのですが、まあガチガチの賞ではないので肩の力を抜いて「今年、この選手は輝いてたよね」くらいの気持ちで見守ってください。
※選手・関係者の所属は2023-24シーズンに準ずる。