「昨年(東芝)も一昨年(パナソニック)も、ファイナルのコートに立ててはいるんですが、プレイタイムには恵まれませんでした。すごく悔しい思いをしたので、その借りを返すと言いますか、自分のプレイをファイナルのコートで最大限表現したいと思います」
ALL JAPAN 2015 男子セミファイナル、トヨタ自動車アルバルク東京に勝ち、(個人として)3年連続でファイナル出場を決めた平尾充庸選手(広島ドラゴンフライズ)はミックスゾーンでこう話した。80‐78の接戦をものにし、初出場でいきなり決勝進出という偉業を達成した広島。若手主体のチームを引っ張ったのは、“若きリーダー”平尾選手だ。
昨年も「2年連続ファイナルですね?」とコメントを求めたが、あまり積極的な言葉は返ってこなかった……が、キャプテンとして臨んだ今大会は違う。ファイナル敗戦後も「自分」のことより「チーム」としての手応えを口にし、常に前向きなコメント。新たな活躍の場を求めて広島への移籍を決め、佐古賢一ヘッドコーチとの出会いで飛躍の第一歩を踏み出した。
佐古HCは就任の際、こんなことを言っていた。
「(現役時代は)自分がリーダーシップを取らなければならないんだと感じ、多くのこと学び取りながらどんどん変わることができました。22、3歳の選手が最初からリーダーシップを持っているわけがありません。いや、持てません。その素質を持っているかどうかを見極め、その選手を育てようという強い意識が指導者になければ育てられないと思います」
数々の栄冠を勝ち獲ってきたリアルリーダー、佐古HCに素質を見込まれた選手のひとりが平尾キャプテン。『佐古イズム』の継承を励みに、チームの牽引役という重責を果たす。
※セミファイナル、ファイナル後のミックスゾーンのコメントを再構成。
信頼関係が生む好循環。
最適な役割を与える難しさ、与えられた役割に徹する強さ
──(セミファイナル、残り2分9秒)執念の3Pでした。(77-69とリードを広げる)
平尾:そうですね、あれはもう打たなければいけない場面だし、思い切って打ちました。
──セミファイナルの前、佐古賢一HCから特別な言葉はありましたか?
平尾:“気持ちで負けるな”というのは言われました。自分たちは今まで、リーグ戦を通して「40分間戦い続ける」ことができていなかったんですが、今日はそれができたので、この結果につながったと思います
──PGとして点も取って、良い展開ができましたね?
平尾:そうですね、でも最後に僕はパスミスがありましたし、まだまだ相手のPGのほうが上手で経験値が高い。こういう試合を経験にしたいと思います。
※セミファイナルの平尾選手の個人成績/12得点、6アシスト、3スティール、出場33:33
1月12日(月祝)のファイナル、相手は昨シーズン在籍した東芝神奈川を破った日立サンロッカーズ東京。序盤から硬さが目立つ広島は自分たちのリズムをつかめず、前半で23-38とリードを許すと挽回の糸口を見つけられないまま66-81で敗れ、準優勝。
※ファイナルの平尾選手の個人成績/10得点、8アシスト、出場35:15
──ファイナルを終えて、改めていかがでしょうか?
平尾:悔しいというのはありますけど、このコートに立てたというのは、僕にもチームにも良い経験になったと思います。次につながると思います。
──昨年、一昨年は優勝を味わいましたが、その時はあまりコートに立てませんでした。今日、コートに立ってみてこの舞台はどうでしたか?
平尾:これだけたくさんのお客様が観に来て下さっている中でコートに立てたこと、自分のプレイやチームのプレイを披露できたことを感謝したいです。僕自身1年目(2分12秒の出場でシュート1本)、2年目(DNP)と苦い経験はしたんですが、その悔しさがあって、この舞台に立てたと感じています。
──試合を振り返ると、序盤から#10竹内公輔選手、#24田中成也選手のシュートがなかなか決まりませんでした。セミファイナルやその前の試合とは違って、司令塔として難しかったと思いますが?
平尾:オフェンスはそうなんですが、前半は相手にリバウンド、特にオフェンスリバウンドを取られ過ぎました。ただ、ディフェンスは自分たちの持ち味を出せたんじゃないかと思います。僕自身もそうですがルーキーが多いですから、このような大舞台の雰囲気に慣れていないというのも敗因のひとつになったでしょう。でも、この経験がルーキーしかり、もちろん僕にとってもプラスになります。ドラゴンフライズを強くしていくと思います。
──広島からもたくさんのファンが駆けつけ、力になったと思います。今大会は広島が一番盛り上げたのでは?
平尾:多くの方がいらしてくださったのでとても嬉しかったですし、その方たちのためにも勝ちたかったんです。残念ですが、次はリーグ戦をしっかり戦い、勝ち抜いて皆さんをまたファイナルに連れて行けるよう頑張ります。
今大会は僕にとっても、チームにとっても特別な大会でした。チームとしては初のトーナメントでどこまで戦えるか、僕としては初めて中心選手としてコートに立つトーナメントで思い入れがありました。準優勝できたので、考え方をよりプラスに変えられると思います。
──今シーズンから広島に入って、佐古HCの指導を受けています。今大会中、佐古HCからの言葉で印象に残っているものはありますか? コートインの際、言葉を交わしていたようですが?
平尾:特別な言葉ありませんが、入場の際のハイタッチで“思い切りやって来い!”という気持ちがすごく伝わってきました。そのお陰で緊張することなく僕らしいプレイができたと思います。
──若いチームの中で、ご自身がリーダーとして引っ張って行く場面がありましたが?
平尾:そうですね、プレッシャーというか、皆をどうやって引っ張って行こうというのはあったんですが、僕自身特別なことをするわけではありません。チームとともにしっかり成長していきたいという思いが強いので、これと言って特別なことはしていません。
──この大舞台で戦った意義、キャプテンとして戦った印象はいかがでしょうか?
平尾:僕にもルーキーたちにも、これだけの観衆の前でプレイできたことは良い経験です。楽しんでプレイできたと思います。このチームでメダルを取って地元に帰る、これは新たな歴史を創れたということ。“銀を取ったら、次は金だろう”そう自分たちも強く思うことができるので、リーグ戦もプレイオフに向けてしっかり準備したいと思います。
また、大会を通して日々ルーキーたちは成長していると感じました。僕もプレイの幅が広がったかなと感じています。
──改めて、佐古HCの存在について教えてください?
平尾:佐古さんの存在は……今でもそうですが、佐古さんが指示を出している時や何気なく声を掛けてくださる時、“あっ、佐古さんだ!”って思ってしまうんです。尊敬の目で見てしまうというか(笑)佐古さんがベンチに居ると、僕たちは落ち着くんですよ。この人の言っていることを守れば成功するんだと感じますし、実際に成功しますから存在感は大きい。あとは僕たちが、受けた指示にプラスαの考えができるか、プレイできるかが大切なんだと思います。佐古さんにしても、公輔さんにしても、居るだけで僕たちの力になります。
──佐古さんから学ぶことが多いと思いますが?
平尾:僕自身、プレイの選択であったり、ゲームの組み立てであったり、「こうすれば良かった、ああすれば良かった」と毎回課題が残ります。すぐに成長できるとは思っていませんから、こういう大舞台を経験することが重要だと思います。これを積み重ねていく中で、少しでも佐古さんに近づけるかなと思っています。
ミックスゾーンでの平尾選手は悔しさを押し殺しながら、記者の質問に丁寧に答えていた。移動するたびに同じ質問を受けても、敗戦の理由よりファイナルまで勝ち進んだチームの手応えを強調していたように思う。広島の選手たちは“選手を育てようという強い意識”を持った指揮官、佐古HCからの好影響が大きいが、それはプレイだけにとどまらないようだ。特に平尾選手がインタビューに答える態度や、明確な受け答えには好印象を受けた。
真のリーダーに育まれ、次世代リーダーへとステップアップしていく平尾キャプテンを中心に、大黒柱の竹内選手や佐古門下の一期生たちが、新たな気持ちで挑むのは『リーグ初参戦初制覇の偉業』。最高の結果を残すには、2月中旬から下旬に組まれたイースタン上位チームのアウェー戦がキーポイントになるかも知れない。そんな時こそ試されるのがALL JAPANで得たチームの“自信”であり、決して“過信に陥らない”メンタルの強さ。
佐古ヘッド&大野篤史アシスタントのコーチコンビは、選手たちが強固な信頼関係を築いた。そのベースがあるからこそ、準優勝という結果を受けてチームの成長度は急上昇……ダークホースから主役へ躍り出た広島に注目が集まるNBLの後半戦が始まった。
文・羽上田 昌彦(ハジョウダ マサヒコ)
スポーツ好きの編集屋。バスケ専門誌、JOC機関紙などの編 集に携 わった他、さまざまなジャンルの書籍・雑誌の編集を担当。この頃は「バスケを一歩前へ……」と、うわ言のようにつぶやきながら現場で取材を重ねている。 “みんなでバスケを応援しよう!”を合言葉に、バスケの楽しさ、面白さを伝えようと奮闘中。