クラブ数が多い分、選手やスタッフの移籍も頻繁に起こるBリーグでは、古巣との対戦というケースは枚挙にいとまがない。特にクローズアップされやすいのは、やはりその当事者がビッグネームの場合だろう。
そこには様々な背景が絡むこともあり、11月3日、4日に行われたアルバルク東京とサンロッカーズ渋谷の対戦は、特に大きな意味を持つものだった。SR渋谷には、かつてA東京で連覇の栄誉に浴したルカ・パヴィチェヴィッチヘッドコーチと田中大貴、小島元基が在籍。その事実だけでも話題性十分というものだが、今回に関しては試合会場も深い縁を感じさせた。パヴィチェヴィッチHCがA東京を率いた5シーズンは、A東京がアリーナ立川立飛をホームとして戦った5シーズンでもあったからだ。A東京のファンならずとも、“ルカ=立飛” の印象を持つ人は決して少なくないだろう。3日の第1戦の後、パヴィチェヴィッチHC自身も「すごく思い出のある場所で戦えるのは特別なことだし、嬉しいこと」と語っている。もちろんこれは「今はサンロッカーズで新しい仕事を受け持っている。プロフェッショナルとして、アルバルクでの思い出は心にしまって、今回の試合に臨んでいます」と自身の今の立場をふまえた上での話であり、いざ試合となればSR渋谷の勝利にフォーカスしていたことは言うまでもない。
おそらく田中や小島も同じような感慨を持ったであろうことは想像に難くないが、この日を待ち望んでいたのは彼らだけではない。A東京も当然ながら、他のクラブと同じように選手・スタッフの入れ替わりがあり、今シーズンは選手だけでも5人が新たに加わった中、3人のかつての戦友もまだまだ多く残っている。
選手では、その3人と特に強い結びつきを持っていたのがザック・バランスキーだ。今シーズンのA東京のロスターで、パヴィチェヴィッチHCが率いた立飛での5シーズンを全て知るのはバランスキーただ1人。加えて、田中と小島は東海大でも共闘した間柄であり、バランスキーにとって今シーズンのSR渋谷戦は、他カードに比べて大きな意味のある試合だったに違いない。
3日の第1戦は88-64というスコアでA東京が完勝。連続60失点未満は5試合で途切れたものの、64失点も十分に少ない数字であり、この試合もA東京はディフェンスの脅威を存分に示した。その中にあって、バランスキーも今シーズンは今まで以上にディフェンスにフォーカスし、「オフェンスはシュートも全然入ってないですし、個人的には納得いってないですが、ディフェンスが崩れなくて、仲間も生かせれば良い流れになるので、自分の役割はできてるのかなと思います」と自信を窺わせた。
この日に関しても、第2クォーター開始間もない時間帯に披露したビッグプレーを振り返って「大貴をブロックして、ちょっと気持ち良かった(笑)」と、してやったりの表情。「でも、後半スリーをやり返されて、あいつもちょっとニヤッとしてた」と、2人の関係性でなければ成立しない無言の応酬を、真剣勝負の中でも楽しんでいた。ちなみに、バランスキー自身の記憶では、田中が対戦相手となるのは初めてのこと。なおのこと、田中とコート上で対峙した時間は特別なものだっただろう。