いくつもの名勝負を生んだ2022年のウインターカップ。中でも藤枝明誠vs開志国際の準決勝は最後の最後まで目が離せない白熱戦となった。息詰まる攻防戦を繰り広げながら迎えた残り5秒。78-76とリードされた藤枝明誠は同点に追いつくラストショットをキャプテン上野幸太に託す。だが、厳しいディフェンスをかいくぐって上野が放ったシュートはリングにはじかれ、その瞬間、藤枝明誠の冬は終わった。
ファイナルのコートに届かなかった僅かな一歩。「悔しいです」。金本鷹監督は開口一番そう口にしたが、その言葉とは裏腹に顔には清々しい笑みがあった。
「最後のシュートは上野で行くと決めていました。エースの赤間(賢人)や霜越(洸太朗)がマークされるのはわかっていましたし、ならばこの大会で調子を上げてきている上野に託そうと。ここまでキャプテンとしてチームを引っ張ってきてくれた上野のシュートならもし外れたとしても誰も文句は言わない。入っても入らなくてもみんなが納得できる。結果的には追いつけませんでしたが、悔いはないです。悔しいけれど悔いはない。選手たちにはありがとうと言いたいですね。最後まで全力で戦った彼らを心から誇りに思っています」
金本監督が指導者として藤枝明誠に着任したのは2015年10月のこと。その後約7年間アシスタントコーチを務め、監督に就任したのは昨年の8月(インターハイ後)だった。その僅か4カ月後に冬の大舞台を迎えたわけだが、終始落ち着いた采配を見せた裏には32歳にしてコーチ歴12年というキャリアがある。ヘッドコーチとして最初にチームを任されたのはなんと大学2年のときなのだ。
「いえ、これにはいろいろ事情がありまして(笑)。私は宮崎県の出身なのですが、父が高校でバスケットの指導をしていたことで物心ついたときから生活の中にバスケットがありました。休みの日には父について行ってずっと体育館にいるような子どもだったので、バスケットを始めたのもごく自然な流れだったし、鹿屋体育大学に進んだのも将来はバスケットの指導者になりたいと思っていたからです。ただ当時のバスケ部には専任のコーチがいなくて、その役割を担っていたのは4年生の学生スタッフ。私も入学した年の6月からそこに加わりました。ところが翌年4年生たちが卒業すると学生スタッフが誰もいなくなってしまったんですね。そこで新キャプテンの月野さん(雅人・岩手ビッグブルズ)からおまえがヘッドコーチをやってくれと言われたんです」