中編「長崎ヴェルカが誇る日本一のスタッフ陣」より続く
「ルーキーヘッドコーチが何を偉そうなこと言ってるんだと思われるでしょうけど…」
長崎ヴェルカのクラブ理念にある「ヴェルカスタイル」。『HARD(一生懸命)』『AGGRESSIVE(激しく積極的)』『SPEEDY(速い)』『INNOVATIVE(革新的)』『TOGETHER(一体感)』と5つのワードを掲げ、ブレることなくチームを邁進させている。はじめて指揮を執る前田健滋朗ヘッドコーチにとっては、未来を照らす道標だ。
アソシエイトヘッドコーチだった昨シーズンは、ディフェンスを重点的に強化していた前田ヘッドコーチ。「ヴェルカ・スタイルを前提とし、どのチームよりもハードに、とにかくアグレッシブなディフェンスを作ってきました」とプライドを持って取り組んできた。B2に昇格した今シーズンは、「簡単に勝てるリーグではないのも分かっているので、相手へのアジャストをプラスしています。そのため、相手によって戦い方を少し変えているところが昨シーズンからの変化です」とブラッシュアップしている。
ディフェンスは基本的にフルコート。相手陣内にボールを運ばせまいと、「8秒バイオレーションを取ることにトライしていますし、相手のターンオーバー数にもすごくこだわっています」と前田ヘッドコーチは全身全霊を注ぐ。15試合を終えた時点で、ターンオーバー数が相手より上回ってしまった試合は2回しかない。圧倒的にディフェンスでターンオーバーを奪う機会が多いことは、数字にも表れていた。
土日連戦のBリーグにおいて、長崎が信条とするフルコートディフェンスはさすがにきつい。だが、前田ヘッドコーチが師事してきた元アルバルク東京のルカ・パヴィチェヴィッチヘッドコーチ、秋田ノーザンハピネッツの前田顕蔵ヘッドコーチ、オーストラリアNBLでもフルコートディフェンスが主流であり、「もう当たり前だと思っています」と染み込んでいた。ドイツで指揮を執っていた当時のジョン・パトリックヘッドコーチ(現千葉ジェッツ)の下へ学びに行ったときも、「ジョンさんのチームもすごくアグレッシブで、それに負けないようなディフェンスのシステムを導入しています」という前田ヘッドコーチの信念がある。
「フルコートディフェンスをしようがしまいが、連戦の2日目はみんな大変です。ヴェルカスタイルとは何かという原点に立ち返れば、2日目でしんどいからフルコートはやめようという理由にはならない。皆さんも仕事していて、次の日にしんどいのは当たり前です。だからこそ、そんな理由で妥協したくない。きつくてもやり続けるにはどうするかを考え、練習からしっかり取り組んでいます」
ヴェルカスタイルのディフェンスを表現し続けるためにも、ロスター全員の力が必要となる。その覚悟を持って、選手たちは毎試合コートに立っていた。
一方、オフェンスではイノベイティブ(革新的)を追求する。ビッグマンがいても、5人が3ポイントシュートエリアに出てオフェンスを作るファイブアウトを試み、積極的に3ポイントシュートを狙って行く。その試投数554本(11月20日現在)はB2トップ。平均36.9本は、B1を含めても一番多く3ポイントシュートを打っている。
今シーズン開幕前、1人の選手が「このチームのポイントガードは誰なんだ?」と疑問を投げかけた。それこそが長崎のイノベイティブなスタイルであり、スピーディーなバスケを展開するベースとなる。「ポイントガードは特に決まってなく、そのときによって異なります。このプレーではこの選手が、違うプレーのときは別の選手がポイントガードになるようなスタイルに、最初は選手たちも驚いていました。それが今シーズンになって、大きく変えた点です」と前田ヘッドコーチは説明する。自陣に入り、フォーメーションをコールする場合も、「その場面に応じて、選手それぞれがポジションについて形を作ります。そもそもコールする機会がほとんどない」というのもまた、革新的である。