ヘッドコーチ業とは「方向性と決断。そして人を動かすマネジメント」
B3リーグに参戦したばかりの2021-22シーズン、45勝3敗で2位のアルティーリ千葉に6ゲーム差をつけて優勝を飾った長崎ヴェルカ。1年目でB2昇格を果たし、順風満帆なスタートを切った。B3リーグに所属していた昨シーズンから高田旭人会長がBリーグの理事に名を連ね、ジェフ・ギブスをはじめとしたB1経験者を多く集めたジャパネットグループのバックアップに話題が先行する。しかし、その戦う姿を一度でも見れば、潤沢な運営面だけではなく、実直なチーム作りをしていることが分かる。シンプルながらも、精度を突き詰めるバスケスタイルがB3リーグ制覇の大きな要因となった。
元アルバルク東京のヘッドコーチであり、その後はアメリカへ渡りテキサス・レジェンズでコーチ研修を行っていた伊藤拓摩氏をGMとして迎え、チームを作りはじめたのは2年前のこと。GMとヘッドコーチを兼務し、目標に掲げる最速でのB1昇格へ向けて指揮を執る。2年目となる今シーズン、GM業に専念する伊藤氏に代わって、ヘッドコーチのバトンを受け取ったのが前田健滋朗氏だ。昨シーズンはアソシエイトヘッドコーチとして伊藤氏の右腕となり、ディフェンス強化に勤しんできた。シーズン後半にはチーム練習全体を任され、試合以外はヘッドコーチと変わらぬ仕事を担う。結果的にインターンのような準備期間を経て、シーズンが終わるタイミングで打診を受け、新ヘッドコーチが誕生した。
伊藤氏とともにアルバルク東京でのスカウティングコーチからプロチームでのキャリアをスタートさせ、オーストラリアNBLのメルボルン・ユナイテッド、秋田ノーザンハピネッツでアシスタントコーチを歴任し、長崎にやって来た。32歳の前田ヘッドコーチは、香川ファイブアローズの石川裕一ヘッドコーチとともに、今シーズンのBリーグ最年少指揮官である。
「他のヘッドコーチに比べれば経験も多くないですし、コーチとしてもまだ10年も経っていません。でも、ありがたいことにいろんなコーチやチームのもとで学ぶことができ、成功体験をたくさん見させてもらってきました。勝者のメンタリティを持つチームばかりであり、そこでは同じようにしっかりと練習していたのが印象的です」
良いものはすべて取り入れながら、長崎に注入する。「正直言って、うちの練習はきついです」というのもそのひとつだ。アシスタントコーチ時代と比較すれば、「今までとは全く違う仕事だと感じています」というのがヘッドコーチ業である。