2021-22シーズンが幕を開けると、長崎ヴェルカはB3の各チームを寄せつけない戦いぶりで、順調なスタートを切った。そんな中で注目されたのは、リーグ戦ではなく天皇杯。10月30日に行われた3次ラウンドで、長崎はB1チームと初めて対戦することとなった。前シーズンはチャンピオンシップに駒を進めたサンロッカーズ渋谷を相手に、どこまで食い下がれるかという点はBリーグファンの注目を集めた。
結果は85-84。第1クォーターにわずか10得点しか挙げられなかったが、後半の20分間で55得点を叩きだす見事な逆転勝利だった。この一戦は、髙比良寛治にとっても昨シーズンの中で最も思い出に残る試合となった。
「シーズンが始まった頃に一番ターゲットにしていたのが渋谷戦で、直前の一週間は渋谷に対してどれだけできるかというところに徹底的にフォーカスした練習をしていました。たぶん、チームがこの1年で一番集中して練習した時期だったと思います。実際の試合になると、B3では笛を吹かれるコンタクトも全然笛が鳴らなかったりして苦戦したんですが、後半にアジャストすることができました。練習でやってきたことは間違っていなかったし、自分たちの力が出せればB1にも通用すると自信になりました。あの試合でヴェルカが本物だと証明できたし、何のプレッシャーもなく楽しみながらできたと思います」
チームとして最もフォーカスしていた試合を楽しむことができるのも長崎の、そして髙比良の強みと言っていいだろう。優れたメンタリティーを備え、結果も伴って自信を深めていった長崎に初めて訪れた試練が、11月28日のベルテックス静岡戦。前日も第4クォーター途中までビハインドを背負い、最後は5点差という薄氷の勝利だったが、この日は追い上げも届かず4点差でリーグ戦初黒星を喫してしまった。
長崎がチームとして優れているのは、このたった一つの敗戦も薬にしてしまうことだ。個人としては「強いというか負ける気がしなかったので、今までプレーしてきた感覚と全く違って、逆にモチベーションの面で難しかった」と意外な悩みも抱えていたという髙比良だが、敗れたことでチームの結束はより強まったと証言する。
「それまでずっと勝ってきて、渋谷にも勝てたので、B3で負けることはないだろうという感覚は誰しもが持っていたと思います。静岡戦で負けたときに選手だけでミーティングしようと提案して、2時間くらいやったんです。そこから言いたいことも言うようになったし、より一層一緒に戦う感覚が出てきて、一致団結したと思います。あの負けが、その後の優勝につながった要因の一つだと思ってます」
あらゆるものを進化の材料にした長崎は、最終的に45勝3敗という成績でB2への自動昇格枠を勝ち取った。コロナ禍によって試合から約1カ月遠ざかるなど難しい局面もありながら、スタッフも含めて全員が慢心することなく成長にベクトルを向け続けた結果だ。3月に寄稿した野口大介に関する記事で、伊藤GMは「10月より11月、11月より12月とパフォーマンスを上げて、今が一番良い」と野口を評しているが、それはチーム全体にも当てはまることなのである。
「1回1回の練習をチャレンジしながらやれましたし、個々が自分のやるべきことをしっかりやって、プロフェッショナルな姿勢を表現することができました。やればやるだけ成長できる環境があって、頼れるスタッフも揃っている。対戦相手もそう感じていると思うんですが、どんどん体が大きくなって、走るスピードもディフェンスの強度もどんどん上がっていった。他のチームならシーズンが進むにつれて落ちるか、良くても維持で終わるところで、自分たちは全員の能力が上がっていったんですよ。カテゴリーに関係なく、1年を通して成長し続けることができたと思いますし、まだまだ伸びしろはあると感じます」