いつだって怪我はスポーツ選手にとって悩みの種で、そしてチームに暗い影を落とす。
どのチームにも故障者の発生によって戦力の低下を余儀なくされる時期は存在し、名古屋ダイヤモンドドルフィンズもその例に漏れることはなかった。
だがタイミングが最悪だった。
チャンピオンシップが始まってプレーが可能だった外国籍ビッグマンはスコット・エサトンただ一人。
さらにそのエサトンにも初戦で不幸が襲い、後のなくなった第2戦は外国籍ビッグマンを全員欠いての戦いとなった。
川崎ブレイブサンダースの暴力的とも言える3ビッグに対する名古屋のインサイドは菊池真人、そして張本天傑。
天皇杯を制し二冠を狙う川崎の一方的な展開になるかと思われた試合は、しかし最終クォーターに入ってもまだ勝負の行方が確定しなかった。
諸般の事情(バイトのシフト)によりリアルタイムの視聴ではなかったため結果だけは知っていたが、それでもなお手に汗握り菊池ガンバレ、張本スゴいを心で連呼、まだいけるまだいけると繰り返し名古屋市民としての自覚に芽生えを感じた。
張本が負傷してコートを離れる姿にこれはあかん、さすがに色々がもうあかんと思わされたものがまさかの復帰、さらに立て続けの3ポイントによってNetflix的な演出を帯び、この脚本を書き上げた両チームに舞台演劇に関する賞の様々を送りつけたくなる一戦となった。
運動強度の高いディフェンスを一貫した今シーズンの名古屋は、そのコストの大きさから外国籍選手のコンディショニングに苦労した印象だった。
3人目のインサイドがなかなか定着しない。
それはつまりエサトン、コティ・クラークの負担が過剰になることを意味したが、その状況下で逞しい接続部としてチームのスタイルを継続させたのは張本だったと思う。
彼がインサイドでプレーする時間は外国籍選手を休ませる繋ぎなどではなく、一つのオプションとして成立するほどの活躍を見せた。
相手ビッグマンとの体格差があろうとも惜しみなく身体をぶつけて守り、正面から1対1を仕掛けて得点するそのクオリティは、多くの日本人ビッグマンに適用される戦術的修正を必要としなかった。
もちろん名古屋のメインオプションが齋藤拓実、クラーク、エサトンである事実は揺らぎない。
しかしクォーターファイナルの戦い、そしてシーズン終盤に外国籍選手がエサトンのみでも琉球ゴールデンキングス に勝利した過去が示す通り名古屋の基盤はとても力強く、そしてその中心で身体を投げ出して大きなものに挑む張本の存在は大きかった。
そのような主張をBBS AWARDの選考会にて述べたところ大きな共感の声が寄せられたが、もう大体の受賞者は決まっていた。
しかしながらどうしても彼の今シーズンに敬意を表したい我々は、新たになにかしらの賞を作る運びとなった。
推薦者にちなんで「巧賞」が暫定的に設定されたが、これはさすがに恐れ多すぎるので「傑物賞」などはどうかと提案してみる。
果たして張本天傑が一体何賞を受賞したのか、結果はBBS編集部のみぞ知る。
文 石崎巧
写真 B.LEAGUE
「Basketball Spirits AWARD(BBS AWARD)」は、対象シーズンのバスケットボールシーンを振り返り、バスケットボールスピリッツ編集部とライター陣がまったくの私見と独断、その場のノリと勢いで選出し、表彰しています。選出に当たっては「受賞者が他部門と被らない」ことがルール。できるだけたくさんの選手を表彰してあげたいからなのですが、まあガチガチの賞ではないので肩の力を抜いて「今年、この選手は輝いてたよね」くらいの気持ちで見守ってください。