信号が赤から青に変わり、やがて滞留していた乗用車が交差点に掃き出される。
長く連なった行列は前へと進む許しを得て、勢いよく飛び出していく。
安藤誓哉の今シーズンからは、そのようなイメージが感受された。
シーズン開幕を前にして島根スサノオマジックが押し進めたチームの革新事業。
その中核を担う存在の一人として迎え入れられたのが安藤だった。
チームの命運を背負い、責任と覚悟を持ってプレーし続けなければならないその立場は、ともすれば重圧に押し潰されて身動きが取れなくなってしまうが、もしかすると安藤自身は長らくその重責をこそ欲していたのかもしれない。
一人はみんなのために、そしてみんなは一人のために。
前者の「一人」が全てのチームメンバーを指すのに対し、後者の「一人」には誰しもがなれるわけではない。
だが選ばれた「一人」にはその責務の重さに比した苦悩と葛藤、そして充足と発展がもたらされる。
バスケットボール選手としての自分自身の価値をより多くの人の目に晒し、評価される道を選択した安藤だったが、高校時や大学時、そして秋田ノーザンハピネッツ所属時の記憶を辿ればその立ち位置こそ安藤が輝いてきた場所だったようにも思う。
今シーズンをプレーする安藤の表情は、とても豊かに移り変わった。
それが最も色濃く現れたのは、チャンピオンシップクォーターファイナル。
元チームメイトからの執拗なマークを振り切ってシュートを決め、相手チームベンチに高まった胸の内をぶつける。
さらに続けて得点を重ね、熱く沸き立つブースターに対し一層の後押しを呼びかける。
味方とのタイミングが合わなかったプレーでは笑みをこぼしながら謝る姿もあった。
感情の発露がマイナスにも作用しかねないセンシティブな状況下において、その時を待っていたかのように生き生きと奔走し、そして自分の踏み出した道は正解であったことを自身の手によって世の中に知らしめた。
安藤のレギュラーシーズンおける1試合の平均プレータイムは32分45秒。
外国籍選手の影響力が強いBリーグにおいて、最も長くコートに立っていた選手の一人となった。
長く試合に出れば出るほど体力的な要因から1プレーあたりの出力は分散されてしまうもので、より短い時間で高い強度が求められる現代のバスケットボールからは距離をおいたクオリティになってしまいがちだ。
しかし安藤はどれだけ出場時間が長くなろうと観客に寛容を乞うことなどなく、移籍前のアルバルク東京を思い起こさせるような激しい守りを続け、そしてチームのファーストオプションとしてオフェンスで足を動かし続けた。
アシスト数はリーグで5位、得点では日本人トップとなる成績は、シーズン前に込められた周囲の願いに対する申し分のない返答だったはずだ。
チームメイトの期待に応え、ヘッドコーチの期待に応え、ブースターの期待に応え続け、初めてのチャンピオンシップへ進出する原動力の一人となったレギュラーシーズンの1768分間は、安藤が求め、島根スサノオマジックに携わる全ての人間が求めた価値そのものだったように思う。
だがどんな成功を収めたとしても、全てが思い通りに滞りなく、順調にうまくいくなどということはありえない。
セミファイナルで苦しんだ安藤が、今シーズンを隅から隅まで満足して終えたわけではもちろんなかっただろう。
敗退となった試合で見せていたもどかしそうな表情。
そこから何かを読み取ろうとするのは無粋なことかもしれないが、選手としてより大きく、より強くなるためのきっかけをまた得たのかもしれないと思わされるくらいには印象的だった。
一つの大きな役割を果たし、さらなる課題を得た安藤は、来シーズンのチームにどこまでのグリーンライトを灯してくれるのだろうか。
文 石崎巧
写真 B.LEAGUE
「Basketball Spirits AWARD(BBS AWARD)」は、対象シーズンのバスケットボールシーンを振り返り、バスケットボールスピリッツ編集部とライター陣がまったくの私見と独断、その場のノリと勢いで選出し、表彰しています。選出に当たっては「受賞者が他部門と被らない」ことがルール。できるだけたくさんの選手を表彰してあげたいからなのですが、まあガチガチの賞ではないので肩の力を抜いて「今年、この選手は輝いてたよね」くらいの気持ちで見守ってください。