遠い昔、サラリーマンだった時代を思い出す。
今思えば、勤めていた某電機会社には、トップリーグを舞台に活躍するスポーツチームがいくつかあった。企業チームは社員たちの一体感や士気向上を担っているとは、よく聞く話。しかし在任中は、その活動や存在自体もほぼ浸透していなかったと言わざるを得ない。当時はインターネットがまだまだ普及していなかった時代であり、情報源は社内報や回覧、食堂の掲示物などであったが、スポーツチームの告知を見た記憶がない。調べて見ると、当時の女子バレーボールチームはリーグ戦を優勝していた。初めて知った事実である。
実は女子バスケチームも保有しており、なんとなくその存在は知ってはいた。しかし、それがどのリーグに所属しているのか、いつ試合をしているのかなどは全く知らず、調べることもなく、いつの間にか廃部になってた次第である。
スポーツチーム以外にも、1998年に行われた長野冬季オリンピックに出場する選手をサポートしていた。金メダルをかけたその選手が着るウェアの肩に会社のロゴが入っているのをテレビで見て、関わってることをようやく知る始末。そもそも他の部署の社員さえ、仕事で関わらなければ知る由もないほどのマンモス企業。スポーツチームも、関わること無き他部署の方々という位置づけだったと言える。
NBLに所属する5つの企業チームは、いずれも大企業である。アイシン精機は単独で約13,000人の従業員がおり、それ以外のチームも世界に誇る企業が名を連ねている。国内プロバスケチームが会場とする地域の人口よりも、企業チームの従業員数の方が上回る場合があるかもしれない。
プロチームが地域の方々をファンにするのと同じように、企業チームは従業員が潜在的なファンとなる。しかし筆者の経験で言えば、その活動自体が社内に知られていなかった。
社員なのにプロ選手?プロ選手なのに学生や就職!?
統一プロリーグへ向けて、企業チームが足かせであるような風潮になっている感が否めない。
本当に企業チームが悪者なのだろうか?
先日、ロンドンオリンピックに出場した陸上競技の選手と会食する機会を得た。その選手の契約形態がおもしろい。
大手企業の名刺を差し出し、社員だと言う。企業チームに所属しているのかと思いきや、その会社に「チームはない」と続けた。出社するのは月に1回程度、残る日々は自分でメニューを組みながらトレーニングをしたり、シーズン中は海外のレースに出場する。レースで得た賞金は全て選手の報酬となり、逆に渡航費などの経費は会社が全て持ってくれる。所属企業がメインスポンサーでもあるが、ライバル会社など事業内容にバッティングしなければ他のスポンサーと契約しても構わないそうだ。社員とは言え、がんばった分だけ選手自身に返ってくる仕組みは、歴としたプロ選手である。
今やユーロリーグはNBA並のサラリーとなり、景気の良いリーグだと思っていた。しかし、その高額なサラリーを手にできるのはほんの一握りだけ。スペインやドイツのプロバスケリーグ事情を伺えば、バスケだけで生活できていない選手の方が圧倒的に多い。
スペインでは、プロ選手でありながら普通に働いている選手もいれば、引退後の将来を考えて大学に通う選手も多いと聞く。2011年、ドイツのSオリバー バスケッツ ヴュルツブルグが日本代表と対戦するために来日した際、日本でもなじみ深いジョン・パトリックHC(2000年代にボッシュやトヨタでヘッドコーチを務めた)も、同じような話をしていたことを思い出す。
成功しているNBAや欧州サッカーリーグなどトップアスリートの中には、実業家としての顔を持つ場合も多く、オリンピック選手の中には現役時代から政治家として活躍するケースもある。
一つの定義として、そのスポーツをしている人こそがプロ選手という概念があったが、周りを見渡すことで様々な形態があることを知った。
プロとは何かを考える大事な時期
「プロとは何か」と、あらためて考えさせられる。
引退後のキャリアデザインを見据えて企業チームを選んだ選手たちの決断は、プロチームを選んだ選手と何も変わらない。岐路に立つ中で存在する選択肢であり、2つのリーグが併存する副産物とも言えよう。
10年が経とうとしているTK bjリーグだが、スクールを作ったりしながら、少しずつ先々のことを考えて動き始めた選手たちもいる。
どんな環境や待遇であれ、24時間365日バスケのことを考える人こそがプロバスケ選手であり、それ以上に一人の社会人として成長しなければならない。
どんなに名選手であっても、活躍できる期間には限りはあるのだから、現役中からその後の生活を見据えるのはすごく当たり前の話である。
景気が悪くなれば、成績に関係なく休廃部に追いやられた過去がある企業チーム。だが、プロチームも同じようにスポンサー企業が離れてしまい、立ち行かなくなったチームがあるのもまた事実。リーグも、チームも、選手たちも、バスケに関わるどんな立場であれ、大なり小なり企業に支えられている。
泉 誠一