まことのものさし(前編)より続く
まさかの格闘技。
ちょっと話が見えない。
今までバスケットの話っていうかヘジテーションが上手いよね、緩急のつけかたがすごいよねって話してたじゃん。
ちなみになんの格闘技を?
「日本拳法です。総合格闘技のもうちょっとゆるいバージョンみたいな感じで、それがバスケに繋がっているのかなと自分では思っています。」
この日本拳法、動画で見てみるとかなりハードな格闘技である。
本人が語る「ゆるい」は、おそらく防具をつけているかどうかという程度の意味であって、パンチありキックあり寝技ありのハイレベルな戦いがそこでは繰り広げられていた。
つまりこれが、木下のいうゼロヒャクに繋がっている、ということなのだろうか。
「そうですね、踏み込みっていう動作で瞬間的に相手にどれだけ近づけるか。それ次第でパンチを当てられるかどうかが決まるんです。それとまずは自分の距離を把握しておかないと、ここらへんまで入り込まれたら相手のパンチが当たるとか、ここらへんまで踏み込めたらパンチを当てられるとかがわからない。その自分の距離を理解していたので、バスケットでもそれがわかるようになってきました。ディフェンスがここにいたらボール取られるなとか、ここやったら取られへんな、っていう自分の間合いが日本拳法をやってきてできていたので。」
この言葉は、木下が出すパスの精度を裏付けるものでもあった。
彼はディフェンスとの間に「自分の間合い」という物差しを置き、それを基準にパスのタイミング、出し方の選択を行っていたのだ。
そして、相手の間合いに一瞬で入り込むための動きがゼロヒャクであり、木下のヘジテーションの源泉というわけだ。
「僕はどっちかっていうとカウンタータイプやったんで、誘って誘って…みたいな感じでした。ディフェンスがピックアンドロールを守るときって、守りやすくするためにどっちか片方へ追いやろうとして方向づけするじゃないですか。その動いた瞬間こそチャンスなのかなって思いながら狙っています。」
カウンタータイプ…宮田一郎…かっこいい…。
相手が方向づけするために動いた瞬間、ズビッとクロスカウンター!
「そこで一個前にドリブルついて、パスを探して一瞬止まると、そこからビッグマンとの駆け引きが始まって。それで、パスするフェイントとか入れるとビッグマンのディフェンスは自分のマークマンに戻ってくれたりするので、空いたスペースにもう一回アタックする。」
お手本のようなヘジテーションである。
それにしてもカウンタータイプという属性は、これまでの木下の主張をより深く理解させてくれた。
自分からプレーを決めない。我慢。
「相手を見ながらやるのがやっぱり好きっていうか。ピックを使ったあとのビッグマンとの駆け引きをどれだけ自分ができるのかをいつも意識しています。ビッグマンと真っ向勝負してもなかなか勝てるイメージはまだ持てないですけど、ピックアンドロールの駆け引きならこっちに分があるのかなと。そういうところのちっちゃい積み重ねなんですけど、ビッグマンが嫌がるプレーをちょっとずつしていけたらと思っています。」
木下が考えるピックアンドロールの面白さは、そこで発生する駆け引きにある。
「ビッグマンとの駆け引きが本当に僕は好きで。単純なパスをするだけだとビッグマンも守りやすくなってしまうので、ドリブルでもう一個アタックしたら相手のビッグマンが寄ってくるなとか、ここでフェイクしたら自分のマークマンに戻るなとか。それでゴール下まで入っていってレイアップまで行ったときに、ビッグマンのディフェンスがブロックに飛んでくるのが見えたら、ブロックをかわすためにちょっと強めに打って味方のビッグマンにリバウンドを取らせようとか。そんなことを意識してやっています。」