奇しくもNBA開幕と同じ日、日本バスケは歩みを止めた──
説明会での冒頭、JBA丸尾 充会長代表は、FIBAバウマン事務総長の言葉を紹介した。
「拙速に期日だけを気にして合意を取るようなことをするな。もっと協議を重ねて将来の日本のバスケットのために良くなることを考えなさい」
それに対し、臨時理事会で話し合われた結果──
「いつまでも先延ばしするわけにもいかず、選手のことが一番大事です。(FIBAによる制裁)結果がどうなるかは分かりませんが、何らかのことが起きたとしても、それをとにかく早く改善するなり、解除することに向けてやっていくことが、理事会の中でも共通認識しています。『何があっても一致団結して行こうぜ』ということで、皆さんの意思が固まったので私としても良かったと思っています」
このポジティブな発言に少しだけ期待を抱いた。しかし、会場を埋め尽くした記者からの質疑応答でその期待が揺らぐ。
バウマン事務総長からの提案であれば、期日に遅れても制裁は回避できるのでは?
「じっくり話すことにより、ペナルティを課さないというようなたぐいの会話はしていません」
危機的状況を脱したわけではなかった。
一緒になれば良いじゃん!
「JBAのガバナンスの確立」「男子日本代表の強化」「2リーグ併存状況の解消」この3つの課題を解決するよう、FIBAから警告されており、このご指摘はごもっともである。
JBAがガバナンスを持って統治し、2リーグ併存状況を解消してバスケットを盛り上げ、多くの方に見られる環境こそが男子日本代表の強化につながる。目指すべき頂点が一つになれば、バスケをしようと競技者も増える。このような相乗効果を誰もが期待し、バスケットの発展を願っていた。
しかし問題解決に至らず、FIBAから資格停止処分を下され、国際試合出場に出られない制裁は免れない。
この統一プロリーグ問題に触れる度にバスケファンも、バスケに興味が無いご近所さんも、簡潔かつ正論で誰もが同じように答えてくれた。
「一緒になれば良いじゃん!」
10月末の回答期限へ向け、7月から組織委員会がスタート。しかし遡れば、2010年にJBA+JBL(現NBL)+bjリーグの3者間による覚書調印式から進めてきた話であり、猶予期間は短くは無かった。第一歩としてNBLを立ち上げて統合を目指したが、プロと明言していなかったために千葉ジェッツのみの移籍で失敗に終わっている。しかし今回は違うと、丸尾会長代行はこう説明した。
「今回なぜ、プロリーグに進んだかと言えば、bjと一緒になるからプロリーグと言ったわけではなく、元々は強化の問題であり、2013年アジア選手権で9位になり、過去からずっと日本代表が低迷している。その中でいろんな強化アイディアがあったが、プロにしなければダメじゃないか、プロというのは一つ大きな壁を乗り越えて選手も、チームも、リーグも、本当にプロで、皆さんから注目されるリーグにしていかなければ強化に結びつかない、そういう気持ちにならないというのがスタートでプロ化を進めています。bjはプロの条件が整っており、一緒にやろうと声がけをしました」
前向きな感じはするが、TK bjリーグ側は「必ずしも今考えているプロリーグが強化のためというわけではない」と説明。組織委員会が立ち上がってからは、そのような話では進んでいないと言っており、意見の食い違いを感じる。
2リーグ統一を目指すのに、運営会社bjリーグがなぜ残る?
リーグ統合へ向けた話し合いの中で、それぞれが合意できない問題点は大きく2つ。
1.企業チームの在り方:バスケで事業を立てる運営法人設立/企業名をチーム名に入れないこと
2.株式会社日本プロバスケットボールリーグ(TK bjリーグ運営会社)の処遇について
一つ目は致し方ないところもあるが、企業チームが持つ環境の良さもある。景気に左右されて休廃部に陥った過去があり、万が一のことを考え、運営法人設立は確かに譲れない。しかし、企業名に関しては広告費として別途徴収し、金銭面で折り合いはつかないものか。企業チームが他のプロチームやリーグを少しでも支えるような構造で歩み寄ってもらいたい。
しかし、2つ目に関しては腑に落ちない。
丸尾会長代行にその旨を訪ねると、「bjリーグは株式会社組織で管理する立場にあります。そこで事業を行っており、株主もたくさんおられます。その中で、『ハイ、辞めた』とは簡単にはいかないわけです。そういう意味でいろんな事業を継続してやらなければいけないところもあるのでしょう」。
新たなる一般社団法人を設立して新リーグを運営することは明確になっている。ならば、スクールなどリーグに付随する事業に対して今後も継続させていくということかと、自分の中ではひとまず納得させた。
しかし、その後の河内 敏光コミッショナーの意見は違っていた。
「我々が10年間やってきて、まだまだやらなければいけないことはたくさんあると思います。そういう意味では全くやったことが無い人に頼むような仕組みであれば、ちょっと待ってください、と」
つまり、新リーグの運営をTK bjリーグのスキームで、株式会社日本プロバスケットボールリーグが行えるように主張している。統一プロリーグとは、NBLとTK bjリーグの2つが一つになり、現在リーグに関わるスタッフが新たなる法人に集い、一緒に運営していくのではないのか?
「そういう方法もあるでしょうが、まだ決まっていないということです」と河内コミッショナーは答えている。
統合後も2つが支配する形では、一枚岩になっていないようにさえ感じる。
何よりも、これは運営権を巡る利権争いではないのか…?
見えない事業性
2つのリーグを統一するには大変な苦労があり、大きなプロジェクトである。そのためにも事業計画書のような設計図が必要だ。統合することでの経済効果や中長期的なビジョンなど様々なアイディアが盛り込まれて然るべきである。
深津前会長に以前、統一プロリーグ発足にあたり、その経済効果を試算されているのか伺った。
「具体的な数値としての経済効果は試算していません。ただ、2つのリーグが一つになることでの相乗効果は当然出ると思っています」
現状の統一プロリーグ草案を、早急に成案へ移すためにリーグ間の合意を目指している。その草案の中に様々な参加要件は盛り込まれているが、その後の効果が分からず、企業名を外せ、運営会社を作れ、と言われても、普通の企業であれば前向きには考えられない。それはプロチームの運営会社も同じはずである。
TK bjリーグ側が株式会社日本バスケットボールリーグで運営していくことを求めているならば、それに対する提案が固まっているのかと思いきや、「ちゃんとした紙に落として、個別の検閲等々のところまでは残念ながらまだありません」と河内コミッショナーは言う。
事業計画書は3者の誰が作成しても良い。それを叩き台にして議論を重ねて合意点を模索し、建設的な話し合いできる。期日が決まっている案件へ進むためのチェックリストにもなる。
企業チームへの課題点があれば、プロチームに対する経営面での改善も見過ごせない点だ。これを機に、集客数や収入に対する基準値を設け、2016年までに改善を求め、さらにふるいにかけることも考えていかねば、後々になってリーグ全体が共倒れしてしまう可能性もある。年々チーム数が増えているTK bjリーグも、13チームに拡大したNBLも、そのレベルが薄まっている感は否めない。選手だけではなく、審判の確保も問題であり、よりレベルの高いリーグ作りが第一目的である。
プロバスケットボールリーグであれば、バスケットボールで観客を魅了する本質を忘れてはいけない。
競技人口低下→観客数減少=大恐慌の始まり
2020年東京オリンピック・パラリンピックは、「アスリート・ファースト」を大々的にアピールしている。その言葉通り、選手が最高のパフォーマンスをできる環境を作ることだ。バスケ界は、その環境が失われそうであり、被害を被るのは選手たちだ。
何度も伝えているように、男女全カテゴリーの日本代表が国際試合出場に出られない制裁が待っている。
しかし、これは序章にしか過ぎない。
日本代表を目指せず、最悪の事態として東京オリンピックにも出られないとなれば、バスケを選択する子どもたちがいなくなる。60余万人いた競技人口だけが支えだったのに、そこから傷口は広がり、負のスパイラルに陥るだろう。
競技者が減れば、登録費を収入源とする協会の財政がひっ迫する。また、今回のことでJOC(日本オリンピック連盟)等からの補助金が止められてもおかしくない。
高身長の運動神経抜群のバスケ選手たちは、他のスポーツにとっても手が出るほど欲しい逸材。今後はサッカーやバレーボールに引き抜かれてしまい兼ねない。高身長者がバスケットに容易に流れる時代は終焉を迎え、男女ともサッカー日本代表が大型化する日も近い!?
競技者が減少すれば優秀な選手が現れず、自ずと認知度も下がり、意固地になっている両リーグを観に行く人も減っていく。希に逸材が現れたとしても、富樫 勇樹や渡邊 雄太の好例があり、アメリカなど目指しやすい海外に進んでしまうだろう。
影響を受けるのは選手ばかりではない。衰退するバスケマーケットは、メーカーやショップ、スクールなども巻き込む大恐慌を迎えるのだ。スポンサーだって黙ってはいないだろう。
考えすぎだと笑われるかもしれない。
バブル崩壊やリーマンショックから数年後、不況の波が押し寄せてきた歴史がある。
ここ数年は何も変わらず、今いる方々にとっては何の痛手も負わないだろう。
しかし、後に残る人たち、バスケに夢を見ている人たちには、氷河期が待っているかもしれない。
未来なき競技は衰退して当然だが…
バスケは流れのスポーツ。良い時もあれば、悪い時もある。日本バスケにも良い流れは幾度もあったが、その度にチャンスを逸してきた。
Jリーグよりも早くからプロ化を検討していたが、挫折した。
2006年、世界選手権(現FIBAワールドカップ)が日本で開催された。その1年前にbjリーグが誕生。つまり、バスケ界が分裂した年だ。男子日本代表が地元で世界に挑み、それを糧にプロ化へ進む図式は最高のシナリオだった。そこで負けても、ドーハの悲劇よろしくその後に巻き返せば美談となる。しかし、混乱の引き金になったことで今に至る。
統一プロリーグへ向けて牛歩していた中、アジア競技大会で男子日本代表は20年ぶりに銅メダルを獲得した。さらに、富樫勇樹のNBA挑戦もバスケ界に活気をもたらしている。これで期限通りに統一プロリーグへ向けて合意し、一枚岩となれば東京オリンピックへ向けて飛躍できるはずだっただけに、非常に悔しい。
ワイドショーに取り上げられている現状を逆手に取り、一転合意すれば誰もが見直してくれたはずだ。
ここまで引きずるとメディアも一般の方々も辟易し、仮に次のタイミングと言われている年末に合意したとしても、忙しい年の瀬でにはここまで話題にならないような気がしている。
すべてにおいて、自らの首を絞めている行為なのだ。
「選手自身が意見を言わなければ、認めているのと同じだ」
あるベテラン選手はこう述べている。プライベートで話した時に聞いたことなので、名前は伏せさせてもらう。
選手たちもまた、現状を把握していない以上、何をして良いか分からないという実状もある。
一刻も早く当事者たちに事の真相を伝えて意見交換をし、より良い方向を見出して欲しい。
未来なき競技は衰退して当然である。
しかし、バスケの可能性はまだまだこんなものではないはずだ。
統一プロリーグまで、「2/3以上は進んでいる」と丸尾会長代行が言えば、河内コミッショナーも「7合目まで来ている」と、その点は意見が一致した。
この問題に対し、善悪をつけたいところだが、期限を守れなかった三者とも悪いのは明確だ。プロと言うならば、期限を守って当然である。信頼を回復するためにも、本当に一致団結しなければならない。
ここから先は、さらに険しい急勾配が待っている。だが、バスケプロパーの両人であれば、現役時代に培ったチームワークでこの難局を1日も早く乗り越えていただきたい。
自分たちのためではなく、全てのバスケットボール選手のためにも──お願いします。
泉 誠一