B3も含めた今シーズンのBリーグ全51クラブの中で、ヘッドコーチという肩書がついていない指揮官はたった1人、越谷アルファーズの桜木ジェイアールスーパーバイジングコーチ(SVC)しかいない。昨シーズン指揮を執った高原純平HCが東島奨アシスタントコーチと肩書を交換し、東島HC就任が発表されたのは昨シーズンが終わって間もない6月11日のこと。それと同時に、昨シーズン終盤の4月にテクニカルアドバイザーとして加入してファンを驚かせた桜木氏のSVC(クラブ公式サイトのリリースではSC)就任も発表されている。そのリリースには「スーパーバイジングコーチ(監督)」とあり、「監督」の文字からは実質的なHCであることを読み取ることができる。
リリースの中で青野和人GMは昨シーズンを振り返り、「桜木アドバイザーの加入は効果的で、プレーオフでは1つギアを上げることに成功し、この続きが見たいと思わせるコーチ陣に球団の想いを託したいと思います」と述べている。第3戦までもつれたファイティングイーグルス名古屋との激戦を制し、セミファイナルでは群馬クレインサンダーズにねじ伏せられたものの、仙台89ERSとの3位決定戦は黒星スタートからひっくり返した。歓喜で終えた昨シーズンの手応えを今シーズンも最大限に活かそうということだ。
桜木SVCといえば、名門UCLAで全米大学選手権を制し、その後NBAバンクーバー・グリズリーズでプレー。現在はメンフィスに移転し、渡邊雄太が日本人2人目のNBA選手としてデビューしたチームだ。日本にやってきたのは2001年。アイシン精機(現シーホース三河)で19シーズンにわたってプレーし、幾度も優勝を経験した。国内では突出した経験値と高いスキル、頭脳、そして勝者のメンタリティーはコーチとしても必ず発揮されることを、青野GMは見越して招いたのだ。当の桜木SVC自身、越谷の一員となった最初の試合で「自分のあらゆる経験をこのチームに還元したい」と意気込みを語っている。
ところで、Bリーグで唯一HCの肩書を持たない指揮官であることは冒頭に書いたが、他クラブのHCと異なる点がもう一つあることも忘れてはならない。2007年に日本国籍を取得した、いわゆる帰化選手であったことだ。特にBリーグ誕生以降は帰化選手が増加傾向にあるが、現役引退後も日本に残ってトップリーグで指揮を執る事例は過去になく、桜木SVCが初のケースとなる。この挑戦は今後の日本バスケ界の可能性を広げる新たな第一歩となるかもしれない、というわけだ。
その意味でも注目しなければならない桜木SVCの新シーズンは、開幕3連敗という予想外の出だしとなった。最初の2節の相手はFE名古屋と熊本ヴォルターズ。いずれもビッグネームを獲得してB1昇格へ本腰を入れた感があり、昨シーズンを3位でフィニッシュした越谷にとって脅威の存在であることを、開幕早々に思い知らされた格好だ。
念願の初勝利は熊本との第2戦。そこまでたった3連敗と思うかもしれないが、現役時代は負けることのほうが珍しかった桜木SVCとしては、さぞや長く感じられたに違いない。試合後の会見で、桜木SVCは笑顔で「思わず自分がコートに入っていきたくなってしまう」と冗談めかして語ったが、引退してまだ約1年半。体型も特に変化はなく、これはまだ少し本音も入っているかもしれない。