このチームで自分の殻を破り、さらなる高みを目指したい(前編)『13番目の選手』から始まったプロ生活 より続く
ネガティブに思える出来事からも学べることはある
新たな挑戦が始まるワクワク感といくばくかの不安。移籍を決めた選手の胸には2つの思いが混在するのかもしれない。須田もまた例外ではなかった。ルカヘッドコーチが指揮を執るアルバルク東京は細部まで計算されたシステマチックなバスケットとして知られる。「不安はありましたね。練習が始まってもとにかく覚えなくてはならないことが山ほどあって頭がパンクしそうになりました」。自分のことを「まず身体を動かすタイプの選手」だと言う須田は、両手をまっすぐ前に伸ばしながら「集中すればするほどこうなっちゃうところがあるんですよね」と笑う。それだけに決まり事の中で動くA東京のバスケットには苦戦した。「さっきも言いましたけど、チームのシステムの中で覚えなきゃならないことがいっぱいあって、その情報を処理しようと思うと身体が止まってしまうんです。動く前に考えてしまうと身体が反応できない」。リーグ2連覇を果たしたチームでプレーしているんだという気負いもあった。そのチームの足を引っ張ることはできないというプレッシャーもあった。練習後、何度ため息をついたかわからない。
「でも、ここでもやっぱり周りの人たちに助けられたんですよね。自分が迷っているときはアシスタントコーチの水野(宏太)さんや森(高大)さんがいつも声をかけてくれて、自分がやるべきことを思い出すことができました。あと、同じ東海大出身の選手が多かったのも心強かったです。(竹内)譲次さんは少し上の先輩ですが、同期の(田中)大貴や後輩のザック(バランスキー)や(小島)元基は一緒にプレーにしてきた仲間。改めて何かを相談するという感じではなかったけど、わからないことはすぐに聞けたし、気持ちが落ちそうになったときも身近に彼らがいることが救いになりました。チームに入ってしばらくはほんとに大変だったんですけど、そこで踏ん張れたのは彼らがどこかで心の支えになってくれたからだと思います」。
踏ん張って最初の山を越えた須田は、それ以降ルカヘッドコーチが求める「ディフェンスやシュートの精度を上げること」を目標とし、最初は全くできなかったというピック&ロールのスキルも身につけていった。「プレーの幅がめちゃくちゃ広がった」という自負はある。それは間違いなくアルバルクに移籍したからこそ得られたものだ。「プレーだけじゃなくて “自分を知る” 上でも貴重な体験ができた2年間でした。たとえばネガティブに思えるような出来事でも、そこから学べるものはあります。チャンピオンシップを逃した昨シーズンなんかはまさにそれでしたね」。3連覇の期待がかかる中で東地区6位(32勝24敗)に沈んだ昨シーズンはコロナ禍の影響で遅れた外国籍選手の合流や大黒柱のアレックス・カークと田中大貴のケガが最後まで響いた。
「苦しい状況を乗り越えられなかったという苦い思いが残りました。自分自身について言えば、大貴がケガをしたことで役割が少し変化したんですが、そこで力を発揮しきれなかった。自分の殻を破ることができなかった。挫折感と言ったら大げさかもしれませんが、新シーズンの契約更新がされなかったことも含め、悔しさというか情けなさというか、そういった気持ちを初めて味わいました」。だが、今はそれも貴重な経験の1つだったと思える自分がいる。力不足を痛感したのなら、ここからまた力をつけていくしかない。A東京で破れなかった自分の殻を破り、超えられなかった壁を乗り越えていくことが新天地での目標になった。