菊地祥平は強面の人である。顔の話ではない。いや、顔も少し強(こわ)いのだが(失礼!)、鍛えられた肉体も強ければ、プレーも強い。しかし、そうした目に見える面が強いからといって、内までそうだとは限らない。むしろ内は柔らかい。剛と柔。その両面を兼ね備えているのが菊地である。
そんな彼がバスケットにおける「ベテラン」をこう定義している ── 個人よりもチームのことを最優先に考えられる選手のこと。では自身はどうか? そう聞くと「自分ではわかりません」と返す。まわりが評価することだと言うわけである。ならば言わせていただこう。彼は間違いなくB.LEAGUEを代表する、屈指のベテランである。
チームのために体を張り、ギリギリのラインで積極的なディフェンスを仕掛ける。必要とあればハードなファウルも辞さない。菊地のプレーを見ていれば、はっきりとそれがわかる。昔からそうだったわけではない。日大山形高校から日本大学を経て、東芝(現川崎ブレイブサンダース)へ。そのころは得点に注力し、試合が終わればスタッツに目を向けた。プレータイムも気になる。自分をいかに見せるかを考えていたのである。
しかしシーズンを重ねていくごとに違和感が生じてくる。6年目には「自分の能力値や、チームにどう貢献していいかがわからなくなるというか、自分が理想とする考え方と体がマッチしていない状況で、素直にバスケットが楽しいと思えなくなった」と明かす。
内まで剛の人であれば、あるいは自分のプレーに磨きをかけて、我を貫こうとしたかもしれない。しかし菊地は内が柔の人である。「勉強こそできないけど、バスケットの頭は悪くない」と自認する彼は「気持ちの整理をつけよう」と、バスケットを辞めようとした。止めたのは家族である。「もう一回頑張りなよ」。それならばと新天地を求めて、移籍を決意する。2013年、B.LEAGUEが始まる3年前のことである。
移籍したトヨタ自動車アルバルク(現アルバルク東京)で、菊地は大きな転身を遂げている。スコアラーからディフェンダーへ。これまでとは180度異なる役割だが、明確にそれを与えられたことで、見失いかけていたバスケットの楽しさを、これまでとは違う側面から見出した。
「役割を全うして勝つことが楽しいと思えたし、それができずに負けると『やっぱりバスケットは難しいんだな』って、逆にそれにもおもしろさを感じたんです」