7月25日から30日まで秋田、山形、仙台で「東日本大震災復興支援 バスケットボール女子日本代表国際親善試合2014」が開催される。出場チームはオーストラリア代表、モザンビーク代表、女子日本代表、そして女子日本代表――今年は世界選手権(9月27日~10月5日 トルコ)とアジア競技大会(9月19日~10月4日 韓国・仁川)が同時期におこなわれることから、世界選手権にはトップチームを派遣し、アジア大会は「2020年の東京オリンピックでコアになりうる世代の選手育成が重要」(高橋雅弘女子ナショナル委員長)と位置づけ、若手中心とした女子日本代表を編成している。つまり女子日本代表が2つあるわけだ。
そのうえでアジア大会に出場する女子日本代表の選手選考は、東京オリンピックに向けたサバイバルゲームのスタートだとも言える。むろん2020年まではあと6年あるので、今大会のメンバーに入らなくても、6年のあいだに伸びてくる選手はいるだろう。それでも東京オリンピックは現時点でトップチーム(世界選手権組)にいる渡嘉敷来夢が中心になってくるのはほぼ間違いない。少し乱暴だが、渡嘉敷…いや、その1つ上の間宮佑圭までを入れて(間宮が2020年に30歳)、彼女の年齢以下を見てみると、7月15日に発表された国際親善試合へ出場する選手は6人。昨年のアジア選手権(タイ・バンコク)を経験しながら、今年はケガで離脱している櫻木千華、元山夏菜を入れると8人。残された枠はあと4つしかない。
ここですでに残りが4つというのもいささか乱暴すぎるが、それでも8人が世界選手権やアジア選手権といった国際大会を経験した(もしくは、する可能性がある)ことを考えると、新たにメンバー入りを目指す選手たちの争いは熾烈を極めることになる。今回のアジア大会のメンバーに残ることは、普段あまり経験することができない国際舞台を踏めるという意味でも価値は大きく、東京オリンピックを目指す若手にはビッグチャンスなわけだ。
低さで勝負をする象徴となれるか
特に2020年に向けて一番大きな課題の1つがポイントガード(PG)の育成。現時点で日本のトップPGは、ケガで世界選手権には出場できない吉田亜沙美だろう。とはいえ彼女だって、ずっと若いままではいられない。2020年には34歳になる。内海知秀ヘッドコーチも「吉田に次ぐPGを探さなければいけない」と常々言っており、今回の世界選手権では伊集 南が抜擢された。独特のテンポとクイックネスでディフェンスを破る力は“ポスト吉田”の一番手なのかもしれない。しかし、それでもまだまだ心もとない面はある。
そこで出てくるのが町田瑠唯である。身長こそ162センチと小さいが、視野の広さと味方を生かすパス力はリーグでも屈指。昨シーズンのWリーグ・セミファイナルではJX-ENEOSサンフラワーズに敗れたものの、果敢にゴールにアタックし、得点力でもチームに貢献している。伊集とは異なるタイプとして生き残る道はある。
「東京オリンピックへの思いはすごくあります。出たいです。だからこそ、ここ(アジア大会女子日本代表)に残らないと次はないと思っています」
一色建志ヘッドコーチが「(身長の)低さをプラスにしたい」と言うとおり、アジア大会女子日本代表は機動力のあるバスケットを標榜している。これはトップチームにも通じるもので、戦う前から高さでは敵わないと逃げるのではなく、低さをうまく利用する。けっして簡単なことではないが、生来低いところで勝負をしてきた町田なら、チームのチャンスを作ることができるかもしれない。
「アジア大会は東京オリンピックへのチャンスだからこそ、落ちてはいけないというプレッシャーもあります。でもそこで力を入れるのではなく、いい意味でのプレッシャーにしたいです」
昨年度も日本代表候補に選ばれながら、最後は落選しているだけに、今年の生き残りには並々ならぬ思いがある。
「今年は日本代表のゲームに出ることが目標。そこでPGとしてチームを引っ張っていかなければいけないと思っています」
小さくても世界で戦えるということを仁川で証明するつもりだ。
姉への思いと、4年前の悔しさと
そしてもう1人、東京オリンピックへの思いを強く持っている選手がいる。大沼美琴である。昨シーズンのWリーグで飛躍的な活躍を見せた選手の1人で、もともとリバウンドやディフェンスなどには定評があったが、エースだった高校時代からシュートに関してはけっして積極的ではなかった。それがJX-ENEOSに入団して以降、その課題を克服しつつある。昨年のファイナルでは値千金のジャンプシュートも決めている。アジア大会日本代表でも、さまざまな“つなぎ”のできるユーティリティーな起用が期待できる。
そんな大沼が東京オリンピックへの思いを語るとき、最初に出てきたのが姉・美咲の存在。美咲は現在、デンソーアイリスのサポートスタッフとしてチームを支えているが、2シーズン前までは現役でプレイしていた。ケガがもとで引退を余儀なくされたわけだが、美琴はその姉への思いを語る。
「ケガがなければお姉ちゃんもここ(アジア大会日本代表)にいたかもしれない。そうすると私はここにいなかったかもしれないし、もしかしたら一緒にプレイしていたかもしれない。バスケットをやりたくてもやれなかったお姉ちゃんのためにもやれるところまでやって、お姉ちゃんをオリンピックに連れていきたい。自分がオリンピックでプレイしているところを見てもらいたい」
誰かのために、という思いほどモチベーションとして強いものはない。彼女の昨シーズンの急成長もそこにあったのかもしれない。
加えて、大沼には日本代表に対して悔しい思いもある。第1回のU-17世界選手権に出場したときのことだ。メンバー入りはしたものの、8番手、9番手での出場。というより、ほとんどゲームには出られなかったという記憶のほうが強い。
「なんだかんだといって、やはりあのときは悔しかったです。でも今はあのときよりちょっと自信がついたし、ベンチでゲームを見るより、ゲームに出て経験したいです」そして大沼は町田と同じように、こう続ける。
「アジア大会女子日本代表に残るからこそ次がある。ここで残ってこそ、東京オリンピックにもつながるんだと思っています」
今月15日、国際親善試合に出場するアジア大会女子日本代表のメンバー16名が発表された。5日前の活動開始の日に23名いた候補選手からすでに7人がカットされているわけだが、その16名の中に町田も大沼も残っている。第一関門突破である。しかしまだ戦いは終わらない。東京オリンピックに向けては、今回カットされた7人も再び敗者復活で浮上してくる可能性が大いにある。新しく戦線に加わる選手も出てくるだろう。もちろんベテラン勢も日本開催のオリンピックに向けて、最後の奮起をしてくることが考えられる。これから6年、そうした戦いを繰り返しながら、それに疲弊することなく勝ち残った者が東京オリンピックの舞台を踏むことになるのだ。
アジア大会女子日本代表は、その経験を糧にして、世界選手権組を引き摺り下ろす気概を持たなければいけない。その一方で食い下がってくる多くのライバルたちを蹴落とす厳しさも求められる。2020年に向けた戦いとはそういうものである。
東日本大震災復興支援 バスケットボール女子日本代表国際親善試合2014
- 秋田大会 7月25日(金)
16:30 日本代表(アジア競技大会) vs モザンビーク代表
19:00 日本代表(FIBA世界選手権) vs オーストラリア代表 - 秋田大会 7月26日(土)
13:00 日本代表(アジア競技大会)vs オーストラリア代表
15:30 日本代表(FIBA世界選手権) vs モザンビーク代表 - 上山大会 7月27日(日)
13:30 日本代表(アジア競技大会) vs モザンビーク代表
15:30 日本代表(FIBA世界選手権) vs オーストラリア代表 - 仙台大会 7月29日(火)
17:00 モザンビーク代表 vs オーストラリア代表
18:30 日本代表(FIBA世界選手権) vs 日本代表(アジア競技大会) - 仙台大会 7月30日(水)
18:30 日本代表(FIBA世界選手権) vs モザンビーク代表
「東日本大震災復興支援 バスケットボール女子日本代表国際親善試合2014」
三上 太