本川紗奈生が移籍したデンソーアイリスは1962年に創部された。以来50年以上の歴史があるが、いまだ日本一になったことはない。2位になった経験はある。2013年度、2017年度のWリーグがそうだったし、皇后杯では直近の10年間で5回もファイナルまで勝ち上がっている。
しかし杯(カップ)は遠い。
9月19日、デンソーの2020-2021シーズンが開幕した。開幕戦こそ接戦で落としたが、それ以降は3連勝(9月30日現在)。
「練習でもそれほど5対5が多かったわけではなく、スタートのメンバーで合わせる時間が本当になくて、正直なところ、自分のなかでそこがつらかったです。しかも開幕戦は『これって練習不足か?』って思うほどみんな硬かったんですね。私自身も開幕戦を楽しめていなくて、せっかくのお披露目なのに硬くなっちゃって。でも合わせ云々じゃないよな、コンビネーションはこれから上がっていくから、2試合目はみんなでバスケットを楽しもうと切り替えたんです。そうしたら結果もついてきました。実際、試合を重ねるたびに合わせができてきている感覚はあります」
どのチームもそうだが、今シーズンは新型コロナウィルスがチームづくりに影響している。
リオデジャネイロ五輪で女子セルビア代表を銅メダルに導いたマリーナ・マルコヴィッチをヘッドコーチに招聘したデンソーだったが、コロナの影響で開幕までに入国が叶わなかった。そのため前ヘッドコーチで、現アソシエイトヘッドコーチのヴラディミール・ヴクサノヴィッチが指揮を執っている。そのヴクサノヴィッチにしても入国が遅れ、フォーメーションなど合わせの練習はほとんどできないまま開幕戦を迎えていた。
「会社としてもコロナに対しては厳しい対応をしていて、自主練習ができなかったり、練習時間そのものの規制も長く続いたんです」
それでも2試合目以降、しっかり対応してくるあたりは、近年リーグの上位を保っているチームの力と言っていい。
本川もそれを認める。
「ワクワク感はありますね。すごく楽しい。毎日練習するたびに新しい発見があるし、みんなのレベルが本当に高いんですよ。当たり前だけどサボる人なんて1人もいないし、控えのメンバーも合わせて15人が必死にやっているところに今の私のモチベーションがあります。自分はスタートで出ているから、みんなのためにやらなきゃっていう意識も出てきますし、そういう意味ではみんなのことを尊敬しています」
とはいえ、新しいバスケットスタイルに馴染んでいくのは簡単ではない。
特に本川が昨シーズンまで師事していた丁海溢は韓国バスケットの本流ともいうべきスタイルでチームを作り上げてきた。つまりはスクリーンを多用し、そこから多彩な攻撃に展開していく、世界的にもやや特殊なバスケットスタイルである。
しかも幸か不幸か、本川はそのバスケットが自分に「すごくフィットしていた」と言う。
「丁さんのバスケットは流れのなかでパターンがすごくたくさんあるんですけど、私は丁さんが来た1年目からそのシステムを吸収できたんです。全員がすぐにできたわけじゃないんですけど、私はなぜかフィットして、おもしろいなと。1回ボールをもらうと、3パターンのオプションが頭に浮かんできて、そこからピックを絡めて、さらに3方向に自分のやりたいことが浮かんできていたんです。それくらいフィットしたから、デンソーに移ってボールをもらったときに他の選手を見ちゃうところがすごく多いんです。開幕戦なんてアシストばかりに目が向いて、自分らしさから遠のいていたというか、練習から少し不安に感じていたことがそのまま試合で出てしまいました」