4月21日月曜日、今シーズン最終回トヨタバスケットボール・アカデミーが行われた。ゲスト講師が何度か続いた後の第6回目はドナルド・ベック、アルバルクHCと伊藤拓摩ACによって締めくくられた。
シーズン中、月に1度のペースで行われたアカデミーという事もあり、導入としてベック氏からアルバルクの近況、チームとしてどのような状態であるか、また如何にプレーオフを戦う算段を立てているかの話があった。アカデミー参加者には“ファミリー”としてオープンに共有したいとの想いからだった。
シーズン中の戦いは勿論、プレーオフに入ってからのアルバルクの戦いを実際に会場で観る事で参加者は更なる発見と気付きを得られるであろう事は言うまでもない。
いよいよ始まった最終回はトランジション・ディフェンスとピック&ロール(P&R)に対するディフェンスにフォーカスが置かれた。ベック氏はアルバルクがNBLシーズン最少失点チーム(失点数:3,738点)である事に“プライド”を持っている事をはっきりと口にした。
バスケットボールとはトランジションのゲーム。攻守の切り替えは勿論のこと、攻守ともにボールが動く度、時間と状況が“切り替わる”度に選手は最適な判断を下さなければならない。
如何に選手の能力を最大限引き出すか。如何に選手の最適な判断を導くか。ベック氏の哲学はこうだ。
『何を教え、何を要求し、何を受け入れるか。』(What, you teach, what you demand, what you accept.)
何を教えるかはお分かり頂けるはずだが、日本語だけでは伝わらない部分もあるかと思うので補足すると、要求=期待する、お願いするではない。要求というのは強い威厳を伴う。また強い要求があればこそ、それ以下、それ以外は受け入れられないと繋がっている。明確なスタンダードが日々の積み重ねの中に確実に作られていく事が想像出来る。
『P&Rでスイッチ、またはトランジションの中でガードの選手を瞬間的に守る必要が出てきた場合、うちのビッグマンにはスライド2歩。これだけを100%やってくれと伝える』のが良い例だ。
自分より早いスピードを持つ選手を恐れるあまりシュートチェックに行かない、1歩で簡単に抜かれる、抜かれる事を恐れファウルする。これらはベック氏が到底“受け入れられる”ものではないのだ。
厳しいようにも感じるが、役割を明確にする事でベストを引き出し、同時に“それ以外はチームシステムでカバーしてやる。”と選手を暗に後押ししているようにも思えた。すなわち信頼関係の強化だ。
先ほどバスケットボールはトランジション・スポーツと書いたが、ベック氏のトランジション・ディフェンスはオフェンスリバウンドの入り方から始まっていた。誰がどのようなポジショニングでリバウンドに参加するかが決められており、シュートが放たれたら“スポット!”と指示が飛ぶ。
効率の良いオフェンス展開から確率の高いシュートを放ち、コート上の5人がリバウンドの体制を整え、取れなかったら次の“スポット”、“レーン”に走る。オフェンス、ディフェンスの切れ目がない。
また、4番、5番選手にアウトサイドシュートを『打つな!』と言う事は決してないという。打っても良いが、4、5番選手が埋めるべきオフェンスリバウンド・ポジションを埋める事なく、後ずさりしながら惰性でバックコートに戻っていく事は“受け入れられない”のだ。
リーグトップクラスのリバウンドチームであるアルバルク。セミナーが終わった後ベック氏はそっと打ち明けてくれた。『うちはリバウンドドリルを一切やらないんだよ。』顔には不適な笑みが浮かんでいた。
プロレベル以外でリバウンドドリルをやらずに試合でリバウンドが取れるかどうかは別の話だが、感の良い読者なら筆者の言わんとする事を理解して頂けるだろう。
バスケットボール哲学の構築に終わりはない。選手が試合状況に合わせて適切な判断が必要になるのと同じように、人員が変わればコーチも少なからず対応が必要になるからだ。トヨタバスケットボール・アカデミー、次シーズンまで開催はないが夏は参加者が実践に移す絶好の機会となるだろう。
NBLプレーオフ カンファレンスセミファイナル
- GAME1/5月3日(土)
15:00 トヨタ東京 vs リンク栃木@大田区総合体育館
15:00 アイシン三河 vs 三菱電機名古屋@広島県立総合体育館 - GAME2/5月4日(日)
15:00 トヨタ東京 vs リンク栃木@大田区総合体育館
15:00 アイシン三河 vs 三菱電機名古屋@広島県立総合体育館 - GAME3/5月5日(月)※3戦2先勝方式のため開催しない場合あり
15:00 トヨタ東京 vs リンク栃木@大田区総合体育館
15:00 アイシン三河 vs 三菱電機名古屋@広島県立総合体育館