part2「ポイントガードほどおもしろいポジションはない」より続く
どんな形でもいいからチームを勝たせたい
「信頼されるポイントガードになるためなら嫌われてもいい」と語った熊谷だが、練習後の風景を見るかぎり、どうやら嫌われてはいないようだ。いや、むしろみんなから可愛がられていると言った方がいいだろう。取材の写真撮影の合間に「かっこよく撮ってもらえよ!」と声をかけたのは川村卓也だ。少し離れた場所で熊谷について聞いてみた。「まだ粗削りな部分はたくさんありますが、彼が自信をもってプレーしているときはチームのリズムが良くなるのを感じます。金丸のシュートとかガードナーのインサイドとかうちのストロングポイントはたくさんありますが、それにプラスして彼がワイドオープンで思いっきりのいいシュートを打てば、ぐっと強みが増します。今はまだ若干周りに気を遣っているところがあるので、そんなのはいいからもっと自分のタイミングでプレーしてほしいですね。気を遣うのは僕らの方だよってことは言い続けています。ポイントガードとしてはパス離れもいいし、状況判断もできているのでまだまだ伸びる要素はいっぱいありますね」。語り終えると再び熊谷に向かい「おまえはなぁ、もっと思いっきりシュートを打てばいいんだよ。これから伸びるばっかしなんだから」と、笑顔で叫ぶ。それを聞いた熊谷の顔からも笑みがこぼれる。
「川村さんはいつもあんな調子で声をかけてくれます。『これから1番、2番のコンビでやるプレーが増えるだろうから、おまえがドライブしたら俺はこう動くっていうのを頭の片隅に入れといてくれ』とか『でも、プレーのファーストチョイスはあくまで自分でいいからな』とか言ってくれるので気持ちがすごく楽になりました。なんでも相談できる人です」
三河のレジェンド桜木ジェイアールもよくアドバイスしてくれるらしい。「ジェイさん(桜木)はすごく優しい人ですよ。あと金丸さんはいいパスを出したときは『ナイスパス!』と言ってくれます。でも、めったに言わない(笑)言ってくれるのは本当にいいパスを出せたときだけなので「ナイスパス」の声が聞けたときは超うれしいです」。先輩たちの話をする熊谷の声が弾む。実に楽しそうなその笑顔は『愛されているルーキー』の証だろう。
鈴木ヘッドコーチの選手の育て方は「あれをやれ、これをやれと押し付けないこと」だという。「本当は言いたいときもありますが、自分自身で考える力をつけてほしいのでなるべく言わずにおこうと我慢する(笑)」。それは熊谷の場合も同じだ。「さっきも言ったように先輩ポイントガードがいない分、最初は精神的にもきついことが多かったと思います。でも、彼は自分で考える力を持った選手なので、ハードルを1つひとつ乗り越えて着実に成長しています。周りに遠慮することなくクリエイティブな部分をもっと出していければさらに頼もしい存在になるはず。さらなる成長が楽しみです」