ポイントガードの真価が問われるとき
20秒の沈黙のあと、吉田亜沙美は口を開いた。
勝敗を分ける要かな── 。
日本を代表するポイントガードである吉田に、「ポイントガード」と聞いて思い浮かべること、もしくは人を尋ねたら、そんな答えが返ってきた。20秒の沈黙は、唐突すぎる質問で戸惑ったのかもしれない。しかしその20秒の間に吉田は頭のスイッチを切り替え、そこからよどみなく話を進めていく。
「やはり試合で負けたらポイントガードのせいだと思っているから……ずっとそういうふうに思って、やってきているんですよね。勝ったらチームみんなのおかげだけど、負けたらポイントガードとしてのゲームメークが足りなかったと。ポイントガードは試合を作らなければいけないポジションだから、それができていなかったときに自分たちの流れが崩れて、負けてしまう。試合を組み立てることと、(崩れてしまった自分たちの流れを)立て直すのはポイントガードでしかないんです。私自身も常にそれを意識してやっています」
シューターがシュートを決める。ビッグマンがリバウンドを獲る。どれも勝敗に欠かせない要素だが、40分という決められた時間のなかで試合の流れをコントロールするのはポイントガードだ。いや、ポイントガードでしかない。吉田はそう考えている。
だが試合の流れは常に一定ではない。40分というけっして長くない時間のなかでも行ったり来たり、止まることさえある。その流れをいかに自分たちのほうに引き寄せるか。それがポイントガードの役割のひとつだというわけだ。
なかでも重要なのは流れが悪くなったときだと吉田は言う。
「流れがいいときは何をしてもいいんです。そうじゃなくて流れが悪くなったとき、自分たちが流れに乗れなくて、苦しんでいるときに、どこでその流れを止めてあげることができるか。それを1分で修正できるのか、それとも5分かかってしまうのか。その時間を短くするのはポイントガードの仕事だと思っています」
悪い流れを断ち切る方法はいくつかある。失点が続いているようであれば、ディフェンスを固めるだろうし、得点が伸びていないようであれば、ポイントガードみずからが得点を取ることでチームを落ち着かせることもできる。
「どうやってほかの選手のいいところを引き出してあげられるか。これも大事なポイントになってくるんじゃないかなって思いますね」
ポイントガードが「司令塔」や「起点」と言われるのは、まさにこのことなのである。流れがよいときだけでなく、むしろ流れが悪くなったときにこそ、その真価は問われるというわけだ。