キンモクセイ香るバス通りを抜けながら、5日ぶりにとどろきアリーナへ戻ってきた。先週末のWリーグ、富士通レッドウェーブのホーム開催時は隣接する公園に大きな水溜りができ、迂回しなければ通れなかった。その後に直撃した台風19号の爪痕はさらに大きな被害を及ぼし、5日間で環境が様変わりする。
「このとどろきアリーナが浸水し、昨日からスタッフ総出で協力して掃除し、消毒をしてくれたおかげで、今日の試合を開催できたことを本当に感謝しています」
川崎ブレイブサンダースの佐藤賢次ヘッドコーチは感謝の言葉とともに、ホームアリーナが被災したことを告げた。
別のコートを設置して試合は滞りなく行われたが、1階席で観戦した方は違和感を感じたかもしれない。一段高い試合コート以外は、とどろきアリーナの既存コートの上にシートを敷いて、観客を迎えていた。浸水した影響で床が水を吸い、1本1本が反ってしまってエッジが立ちガタガタになっていた。足に意識を集中して歩けば、床の状況が伝わってくる。ドリブルすれば、イレギュラーしてしまうことも容易に想像できるほどだ。
被災したとどろきアリーナだったが、多くの方々の尽力によって息を吹き返し、川崎ホームゲームは無事に開催された。前売り時点でチケットは完売し、4千人を超える多くのファンが歓声を送る。「良いエネルギーを持ち、見ている方々に何かを伝えられるようなプレーをしよう」と佐藤ヘッドコーチは選手たちを送り出す。この日の対戦相手である富山グラウジーズから移籍してきた大塚裕土が、得意のアウトサイドシュートを決めた。
長野県の千曲川の堤防決壊により、北陸新幹線は今なお運転再開の見込みが立っていない。富山は急きょ、空路での移動に切り替える。しかし、富山〜羽田間は満席だったため、石川県の小松空港経由でこの試合へ間に合わせた。大塚は古巣との対戦を楽しみにするよりも、「試合が開催できるかどうか分からない部分の方が大きかった」とホームアリーナと移動してくる仲間たちのことを心配していた。
試合は73-69でアウェーの富山が勝利した。満員のホームゲームで負けた悔しさとともに、「もっともっと良い形で今日の開催をみんなで共有したかったですが、それができなかったのが非常に残念でした」とキャプテンの篠山竜青は天を仰ぐ。「みんなが大好きですし、このチームが大好きです。だからこそ、このチームが負けることが本当に嫌だ」と篠山は続けたあと、次の千葉ジェッツ戦へ向けて気持ちを切り替えており、いくらでも挽回はできる。
ラグビーワールドカップで初の決勝トーナメント進出を決め、快進撃を続ける日本代表の愛称はブレイブブロッサムズであり、日本全体に勇気を与えている。川崎ブレイブサンダース、そして長野県を本拠地にする信州ブレイブウォリアーズも「ブレイブ」の名を持つチームたち。勇敢に戦い、地元を元気づけていくことがスポーツの力である。
文・写真 泉誠一