2月19日、川崎クラブチッタ。その前週にレギュラーシーズンを終えたストリートボールリーグSOMECITYは、「NIGHT COLLEGE」というイベントを催した。イベント名が示す通り、大学生プレーヤー ── しかもほとんどが関東大学1部リーグに所属する世代屈指の実力者とSOMECITYのレギュラーメンバーを対戦させるという初めての試みだ。
招待選手は以下の通り。
ALL COLLEGE
小林遥太(青山学院大4年/178cm77kg/京都・洛南高出身)
藤井祐眞(拓殖大4年/177cm70kg/静岡・藤枝明誠高出身)
河上宗平(早稲田大4年/190cm84k/京都・洛南高出身)
森山翔太(明治大4年/186cm75kg/千葉・市立船橋高出身)
占部賢人(鹿屋体育大4年/173cm73kg/福井・北陸高出身)
柳川龍之介(白鴎大4年/185cm78kg/宮城・市立仙台高出身)
YOUNG COLLEGE
大垣慎之介(拓殖大3年/186cm70kg/静岡・藤枝明誠高出身)
満島光太郎(拓殖大2年/181cm72kg/沖縄・興南高出身)
赤石遼介(拓殖大2年/188cm84kg/群馬・太田東高出身)
岡本飛竜(拓殖大2年/170cm70kg/宮崎・延岡学園高出身)
メンバーは大学総合スポーツサイト「CSPark」の協力により、1対1に強い選手を厳選。学生ナンバー1の1対1プレーヤー宇都直輝(専修大4年)も、トヨタ自動車アルバルク東京へのアーリーエントリーがなければALL COLLEGEの一員になる予定だったという。彼らに加え、オープントーナメント(U-23部門)を勝ち抜いたPHONEX(東海大バスケ部が主体)が、学生代表としてイベントに参加した。
ストリートから伝えたい「遊び」の感覚
SOMECTTYが今イベントを企画した理由の一つは「遊び」だという。イベント企画者の一人であるTANAは話す。
「関東の1部チームで活躍する大学生たちはすごく高いスキルを持っているし、これからのバスケット界を変える重要な位置にいます。ただ、人生のウエイトのほとんどをバスケットに費やし競技バスケットで『勝つ』ということを追求してきた彼らは、バスケットの遊び方を知らないのではないかなと感じることが多かったんです。事実、トップリーグのオールスターゲームを見てみても、気を遣ってパスを回すばかりでスキルのぶつかり合いにならないことがほとんどです。これはやっぱり日本に『遊び』の文化がまだないからだと思うんです。僕らがストリートで伝えたいのは『バスケットの究極の遊び場』であるということ。やりたいプレーにこだわって、追求した結果スタイルが生まれる。そういうことを僕らの世界から伝えられないかなという思いから、このイベントを企画しました」
選ばれた大学生選手たちは、若くはあるが全国大会出場、日本代表など華々しい経歴を持ち第一線で活躍する精鋭だ。しかし今回の戦場はオールコートの5対5でなくハーフコートの3対3であり、体が震えるほどの大音響のクラブチッタであり、コートの四方を観客がみっちり取り囲んだ黄色いコートである。
果たして学生たちはどこまでアジャストできるのか。「どうなるのかは……まったく分かんないっす!!!」。試合前のTANAは力強く断言した。
参加選手の証言
結果からいうと、PHOENIXとALL COLLEGEは若手選手で構成されたSOMECITY YOUNG GUNSに一回戦負け。YOUNG COLLEGEは激戦の末に一回戦を勝ち抜いたが、脂の乗り切ったボーラー連合軍・ALL SOMECITYを前に一蹴された。学生選手のコメントから、当日の雰囲気をプレーバックしてみよう。
PHOENIX 梅林聡貴(東海大学4年)
「大学の先輩が平塚Connectionsにいるので、SOMECITYはよく知っていました。実際にコートに立ってみて、まず緊張です。音楽がすごいし、MCもいるし、完全にいつもと違う環境だったので…。試合に入ってからはシュートもガンガン打てて楽しかったんですが、本当はもうちょっと試合に出ていたかったですね(笑)。卒業後は実業団でプレーしますが、可能ならば今後は平塚Connectionsの一員としてこの場に立ちたいですね」
ALL COLLEGE 森山翔太
「観客との距離の近さや、スポットライトを浴びならプレーできる環境に憧れていました。メンバーもそろっていたので優勝するつもりで来たんですけど、経験の差が出ちゃいましたね…。僕自身ももっと魅せたかったです。3オン3はコート上でのバランスを取りながらプレーするのがすごく難しかったです。またぜひ出たいです。誘っていただければいつでも飛んでいきます(笑)」
YOUNG COLLEGE 大垣慎之介
「SOMECITYはYoutubeで事前に見ていたけど、実際やってみたらめっちゃ、めっっっちゃ!! 緊張しました。最初の方は足が震えたくらいです。メンバーが1人急遽来られなくなってしまったので4人で挑むことになったんですが、2試合目は体がきつすぎたし相手もすごくうまくて。マッチアップした選手(平塚ConnectionsのSHIGEO)にスリーを立て続けに決められたときは、完全に会場の盛り上がりに飲まれてしまいました。こういうバスケットがあるということを知れてめっちゃ楽しかったけど…悔しさのほうが大きいです。絶対リベンジしに帰ってきます!」
YOUNG COLLEGE 岡本飛竜
「緊張する暇がないくらい楽しかったです。3対3は一つひとつのプレーで100パーセント力を出し切って、瞬発力がすごく消耗されるイメージ。自分たちは若くて大学でプレーしていて体力があるはずなのに、最後のほうは足に来てシュートが全然入りませんでした。2試合目にマッチアップしたCHIHIROさん(平塚Connections)の1対1の強さは噂には聞いていたんですけど、スコ抜きされてしまいましたね。ディフェンスには自信あったんスけど…。でもマッチアップできて楽しかったです。個人的にまた1対1をやりたいです!」
現役ストリートボーラーの思い
SOMECITY YOUNG GUNSでプレーしたTA-BO(UNDERDOG)は、ここぞというところのハートのこもったプレーで試合の流れを幾度となく引き寄せた。彼は大学3年生まで強豪大学でプレーした経験を持つ。
「自分も競技プレーヤーだったから分かるんですけど、ストリートの人間を馬鹿にしているというか、上から見ている感じが正直あると思うんです。でも、実際ストリートに来てみたらそうじゃなかった。今日は彼らにも、彼らを見るために足を運んだ方にも、気持ちで体を持ってきてハードにプレーする俺たちのストリートシーンを見せたかったです」
ALL SOMECITYのCHIHIROは、「(ストリート)ボーラーの中で一番大学バスケを見ている」という自負を持つ選手だ。
「開催を聞いたときはテンション上がりましたね。『マジか、あいつらとやれるんだ』って。最近プロの門戸が広がって、若くて経験がある奴らがストリートに来なくなってしまっている危機感はあります。ALL SOMECITYのメンバーも30歳の僕が最年少でしたから。だから刺激的な若い選手をいつでも求めている。今日参加した選手たちが『ここに出たいな』って思ってくれたらありがたいですね」
TANAはインタビュー中、こんな言葉を口にした。
「今回招待した選手たちは、言ってしまえば『僕たちが憧れたけど立てなかった場所』にいる選手たちなんです」
出場したストリートボーラーたちも「コンプレックス」と言ってしまえば簡単だが、少なからず複雑な思いがあっただろう。しかし快く迎え撃ち、自らの流儀で堂々と戦い、勝った。今回のイベントは大学生たちだけでなく、ストリート界にとっても新しい風を吹き込むものとなったに違いない。
TA-BOの思い、CHIHIROの思い、そしてTANAの思い。ストリートから発信されたメッセージは、メインストリームを進んでいくだろうカレッジプレーヤーたちにどう届いたのだろうか。一回こっきりのイベントにするにはあまりにもったいない。同じような試みをぜひこれからも続けてほしい。
文・写真 青木 美帆
野球部マネージャーだった2002年の夏、たまたま観戦した日立インターハイ(能代工業vs八千代)をきっかけにバスケットに取り憑かれる。雑誌『中学・ 高校バスケットボール(現在は休刊)』編集部を経て現在はフリーの編集&執筆。かつての自分と同じような競技未経験者に、バスケットの魅力を届けることを ライフワークとしたい。