「NBAのトレーニングを体感しよう!」と題し、Dazzling Clubが主催するバスケットボールスキルキャンプが10月に開催された。アメリカから来日したタナー・リンド コーチは、スキルトレーニングに特化した団体『LACE ‘EM UP』代表であり、グローバルに活躍中だ。 オフシーズンにはNBA選手やチームのワークアウトコーチとして多数参加し、レブロン・ジェームス スキルアカデミーのコーチも担当する。今オフは、ペイサーズのビクター・オラディポ選手を指導したトップスキルコーチである。2017年、信州ブレイブウォリアーズでもクリニックを開催した。
気がつけばゲームライクな動きを習得
今回は小学生から大人まで多くの方が参加。リンドコーチの動きをマネしながらドリブルドリルやステップワークにチャレンジしていく。小さなコーンやテニスボールを利用したスキルトレーニングは一筋縄ではいかない。例えば、ドリブルをしながらもう片方の手でテニスボールをドリブルしたり、高く上げてキャッチしたり、2つの動作を同時に行う。続いて、ドリブルしながら床に置かれたコーンをスライドしていく。
これらの動作が基本となり、バスケットボールとテニスボールやコーンを用いてバリエーションを広げていく。様々なドリルを組み合わせていくと、気がつけばゲームライクな動きになっていることに驚かされた。今回のトレーニングのほとんどは1人でできる。コーンやテニスボールがディフェンスやスクリーナーとなり、ピック&ロールが成立していた。言わば、一人でできる5on5の練習だ。
ボールをコントロールするだけでも、苦戦していた参加者たち。最初は半信半疑だったことだろう。しかし、一つひとつのドリルに意味があり、それぞれをつなげていくと試合に生かせることに納得したことで、さらに積極的に取り組んでいく。一部始終を見ていた元女子日本代表の原田裕花さんも、スキルトレーニングの重要性を説いている。
「今はオールラウンドなスキルが求められるので、このようなスキルトレーニングはより重要性が増しています。今回教わった中でも、自然に重心を低くするドリルは良かったです。テニスボールやコーンを拾ったりする動きの中で重心が低くなるとともに、前に進むためにも姿勢は起こさなければならず、基本姿勢の習慣付けにはもってこいの練習だと思いました。また、楽しみながらチャレンジできるドリルです。強制的ではなく、率先してやりたくなる内容です。クリアするモチベーションを持ってトライしながら、自然とスキルが身につくのは良いですね」
リンドコーチが自らスマホでトレーニングの模様を動画で撮影。すぐさまモニターにつなぎ、みんなで確認。良いところは褒め、できていないところは視覚的に納得させる。また、NBA選手の写真などを用いながら良いイメージをインプットさせ、もう一度トライ。参加者たちのやる気を奮い立たせ、好循環を生んでいた。
動きにくさを追求したトレーニング
2日間に渡って指導したリンドコーチは日本人のスキルレベルについて、「アメリカ人と日本人の違いは見当たらないです」と評価。「日本人にも、NBA選手にも同じことを、同じ熱量を注いで教えています」と言うように、貴重な体験となった。
スキルトレーニングが難しいのは当たり前だが、その意図をリンドコーチはこう説明する。
「スキルトレーニングは、チーム練習やゲームとは違うところがたくさんあります。私は動きにくさを追求して教えています。選手たちにとって、やりにくいポジションでもプレーできるようにしたり、不完全な状態からシュートを打てるようになって欲しいと思ってメニューを考えています」
それに対し、原田さんは親交あるなでしこジャパンの高倉麻子監督から聞いた言葉を思い出す。
「いろんな動きを体に身につけておくと、いざというときに反射的に出せるそうです。そのためにも、いろんな動きを体に染み込ませておくことが大切だと高倉監督は言ってました。確かにそのとおりで、無意味な動きだと思っていても、何かの瞬間に体が反応することもあります。引き出しは多ければ多いほど、そのまま自分の武器になります。どのポジションであってもドリブルは必要な時代ですし、身につけておいて損はありません。むしろプラスになることの方が多いです」
今回のキャンプは麻布大学付属高校やヤマト運輸の女子バスケ部など、多くの女子選手が参加した。リンドコーチは男子と女子で教える内容を変えていたのだろうか?
「私は全ての選手に対し、同じトレーニングを教えています。それはNBA選手も一緒です。弱点や強み、ポジションに関わらず同じ課題を与え、その中で600に及ぶチェックリストを使いながら、それぞれの選手を診断しています。まず、偏見を持たないようにし、そして選手たちの技術を最大化していくことを心がけています」
1時間半、いつもの練習とは全く違うバスケ練習を初体験した参加者たち。うまくいかない方が多かったにも関わらず、笑顔で「楽しかった」と感想を述べる。忘れないように、終わったあとすぐさま復習をはじめていた。バスケットはスポーツであり、スポーツは遊びである。スキルトレーニングは、バスケの楽しさが詰まった原点と言えよう。
LACE ‘EM UP
協力:望月秀泰(Dazzling Club)
共催:NPO法人ピボットフット、NPO法人クライムウッズ、ヤマト運輸女子バスケットボール部
文・写真:泉 誠一