コートの内外でチームの在り方を体現するキャプテン(正中岳城)
正中岳城はトヨタ自動車時代から数えて11年、アルバルク生え抜きの選手としてコートに立ってきた。初めてのリーグ優勝を味わったのは主力としてチームを牽引したJBL2011-12シーズンだった。しかし、それ以後チームは優勝から遠ざかり、年を重ねるごとに正中のプレータイムも削られていく。今大会のチャンピオンシップでの出場はファイナルの41秒のみ。5試合のほとんどをベンチウォーマーとして過ごしたことになる。にも関わらず、正中がチーム内で放つあの存在感はなんなのだろう。
以前、ザック・バランスキーからこんな話を聞いた
「自分がなかなかプレータイムをもらえず、心が折れそうになったとき、いつも励ましてくれたのは正中さんの存在でした。正中さんも決してプレータイムが多いわけではないのに、練習では誰よりも声を出し、誰よりも頑張る。そんな先輩の背中を見たら自分が腐ってる暇なんかありません。本当にリスペクトできる人、付いていきたいと思える先輩です」
また、取材記者の間でよく聞こえたのは「アルバルクのチーム状況を知りたかったら正中に聞くのが1番早い」という声だ。それは取りも直さず、正中が常にチーム全体に目を配り、チームの在り方に注意を傾けているということだろう。聞く者の心に響くスポークスマンとしての才能もまた一流だ。優勝後の記者会見で、今シーズンを振り返った正中はこんな発言をしている。
「決して順風満帆ではなく、試行錯誤のシーズンだったからこそ(優勝という)高いところに行きつけたのだと思います。栄光の瞬間の手前にこそ辛い時間帯があり、暗い時間帯があるのだなあと。今、振り返るとそんな思いになります」
『栄光の瞬間の手前にある辛い時間帯』は、1つのシーズンに限ったことではない。3年、4年という長いスパンで考えたときも栄光の手前にはひたすら努力を重ねる我慢の時間帯があるはずだ。それをチームとしてどう克服していくのか。どんな一歩につなげていくのか。アルバルクで6年ぶりの栄冠を勝ち取った正中だからこそ語れる言葉は、それだけに深い重みを持って優勝に花を添えたような気がする。
文・松原貴実 写真・吉田宗彦