天皇杯 第46回日本車いすバスケットボール選手権大会は宮城MAXが10連覇を果たすとともに、初の天皇杯を手にして閉幕した。
王者・宮城MAXは15名のロスターのうち、30代以上の選手が11人を占めている。MVPを受賞した土子大輔選手は37歳だ。準優勝・NO EXCUSE、3位・埼玉ライオンズ、4位・ワールドバスケットボールクラブを含めたベスト4チームの全ロスター51人中37人と、72.5%が30代以上の選手で占められている。
障害により思うように動かせない体の使い方や車椅子操作を自分のものにしなければならない。その修練に時間がかかるからこそ、30代以上の選手たちの活躍が目立つスポーツでもある。アスリートにとってはベテランと呼ばれる年代かもしれない。しかし、車椅子バスケではいぶし銀の輝きを放っていたのは30代以上の選手たちだ。今大会でさらに上を行く40代以上の4人に話を伺い、車椅子バスケの魅力を語ってもらった。
2年連続で決勝に進んだNO EXCUSEは延長戦まで粘りを見せたが、残念ながら宮城MAXの牙城を崩すことはできなかった。46歳の森紀之選手は、「日本一になりたいです。しかし、宮城も強い。向こうはチャンピオンであることを自負しており、10連覇するんだという意気込みはすごく伝わってきます」と決勝を前に感じていた。それを上回るべく、「初代天皇杯チャンピオンになろう」と強い気持ちで挑んだことで、40分間は対等に戦うことができた。
ベンチメンバーを含め、「誰が出ても遜色が無い戦いができる」と中井健豪ヘッドコーチはNO EXCUSEの強みを挙げた。森選手も、「森谷(幸行/26歳)や湯浅(剛/30歳)ら若手が伸びてきていることでチームとしての厚みが増しました。(エースの香西)宏昭(29歳)に頼っている部分がこれまではありましたが、『今年は自分たちでもできるんだよ』ということを見せられる舞台にできたと思います」と厚みが増している。森谷選手と湯浅選手はオールスター5(ベスト5)にも選ばれ、その実力が認められた。
森選手の役割は、「コミュニケーションを取ることはベテランだからこそできることです。若手が一生懸命プレーしている部分に対して、うまく声をかけながら前に進むような調整役です」。同じポジションであり、タイムシェアをする湯浅選手について、「本当に練習を一生懸命にやる選手です。体ができてきたことで、ゴール下のランニングシュートの精度も上がってきています。練習中から良くなってきたことが、この大会でもしっかり表現できていました」とその成長を実感している。一方で、湯浅選手のプレーイングタイムが伸びていることに対し、「代表候補にも挙がっている選手なのでどんどん活躍して欲しいです。彼がうまくいかないときやファウルトラブルになれば、僕がサポートできれば良いと思っています」と経験値を生かしたバックアップ体制は万全である。
現在46歳の森選手だが今なお第一線で活躍しており、30歳の湯浅選手は若手と言い切る。30代から活躍する選手が多い、車椅子バスケの状況について、経験者はこう語ってくれた。
「30代の頃が一番体も動いていましたが、そこからピークアウトしていってます。でも、経験があるのでうまくごまかしながらプレーしていくことはできていますね。スカウティング能力と言えばよいのかな。相手の得意なところも苦手なところも分かるので、そこをどう突いていくかを考えてプレーしながら、若い選手を生かしていけば良いと思っています」
対応力こそが武器であり、「ずる賢さは絶対にある」とベテランならではの技術で日本一を争う舞台でも輝き続けている。16歳の時に交通事故に遭い、そこから車椅子バスケをはじめたので30年のキャリアを誇る。その魅力について聞けば、「基本的に車椅子バスケが好きなだけ」と簡潔な答えが返ってきた。
「みんなで車椅子バスケができるだけで楽しい。NO EXCUSEの良いところは、みんながチームのためにプレーにしようという基本があります。そこにフォーカスし、チーム全員で徹底しているので、団体競技の素晴らしさを常に感じています」
文・写真 泉 誠一