第67回関東大学バスケットボール選手権(スプリングトーナメント)は中央大を99-68の大差で下した筑波大が見事大会3連覇を達成した。
決勝戦は余裕とも言える試合運びで最後はベンチメンバーを全員コートに送り出した筑波大だったが、決勝の舞台までは何度も黄信号が点る苦しい大会でもあった。初戦となった明星大戦では前半を終えて58-55とリードは僅か3点。4Qにようやくエンジンがかかり90-70と一気に突き離したものの、今年から2部に昇格したばかりの明星大を相手に苦しんだ”30分”は「らしからぬ」と言われても致し方ないものだった。
前半14点ビハインドを背負った準々決勝
続く準々決勝で対戦したのは青山学院大。筑波大はここでも出だしから相手の気迫あふれるプレーに押される形となる。ゴール下に果敢に切れ込む青学大に対しディフェンスが後手に回ると、外からも伊森響一郎、納見悠仁(ともに3年)に小気味いいシュートを決められ、前半終了時には26-40とリードを許す。
「今年はちょっと(チームを)大型化にしたことで、春の段階のディフェンスに不安はありましたが、それが的中しました。相手のガード陣にあれだけ縦のドライブを切られるとディフェンスができなくなる。ハーフタイムに話したのはその部分の修正についてですね。また、オフェンスではボールが全然回っていなかったので、前半のオフェンスは捨てることにしました。後半は違う攻め方をしようと」(筑波大・吉田健司監督)
指示したのは『オフェンスのズレを作ること』――
「前半は青学のスイッチディフェンスにやられていたんですけど、センターのところだけはスイッチしていない。だから、とにかくセンターがスクリーンをかけてズレを作り、そこから攻めようと言われました」(牧隼利・3年)
これが功を奏して後半はボールが回るようになり、筑波大本来のリズムが戻ってきた。4Q残り5分にはまだ10点差あったが、そこから一気にテンポアップすると青学大の背中を完全に捉え、残り25秒に牧のフリースローでついに73-72と逆転に成功。残り1.2秒、青学大の最後のオフェンスとなった赤穂雷太(2年)のゴール下シュートを全力で守り切ると、1点差の勝利で準決勝に駒を進めた。
またしても”追う展開”となった準決勝
最後の最後まで勝敗の行方がわからなかったのは準決勝の大東文化大戦も同じだ。昨年のインカレ決勝で敗れた相手だけに「リベンジしたい」気持ちは強かったが、大東文化大の激しいディフェンスの前にターンオーバーが続出し、前半を終えて29-35と、またしてもリードを許す展開となる。だが、意外にも吉田監督をはじめ筑波大の選手に焦りはなかった。
「前半だけでターンオーバーが17というのは、普通に考えたら負けパターンの試合ですよ。だけど、それでも点差は6点だったわけですからそこを修正すれば後半の流れはこちらに来ると考えていました」(吉田監督)
だが、3Qに入っても大東文化大の勢いは止まらず、熊谷航(4年)の連続3ポイントシュートやビリシベ実会(4年)のジャンプシュートなどで点差は最大11点まで広がった。「でも、なんていうか不思議と負ける気はしなかったです。自分たちのバスケットをすれば絶対逆転できると思っていました」と、牧。増田啓介(3年)やベンチから出た青木太一(4年)の連続シュートで45-50として迎えた最終Q、劇的な瞬間が訪れたのは残り1分を切った61-63の場面だった。
大東文化大のタイトなディフェンスをかいくぐって山口颯斗(2年)が値千金の3ポイントシュートを沈める。この日初めてのリードを奪ったこの1本が。結果試合の決勝点となった。残り14秒、大東文化大も果敢に最後の攻撃を試みるが、ビリシベのシュートはリングに嫌われタイムアップ。64-63で連日の逆転勝利をものにした筑波大が決勝進出を決めた。
勝負を分けたのは「あきらめない」メンタル
筑波大は今年U24代表チームに玉木祥護(4年)、牧隼利、増田啓介、そしてルーキーの井上宗一郎の4人を送り出した。「代表のスプリングキャンプから韓国遠征があり、4人が戻ってきたのは4月中旬。全員揃って練習できた時間が短かったこともあり、コミュニケーション不足は否めませんでした。それが今回ターンオーバーが目立った要因にもなっていると思います。ただ、ミスは多かったのにあわてることはなかった。全てにおいて落ち着いていて、私がタイムアウトを取る前に自分たちの中で修正できているようなところがありました」と、吉田監督。その”落ち着き”をもたらしたものは?の問いには「去年までの財産でしょう」という答えが返ってきた。
「優勝の経験はもちろんですが、何度も決勝の舞台で戦った経験はチームの財産になっています。少なくともメンタルの部分ではあまり不安は感じていません」。
吉田監督の言葉を裏付けるようにエースの牧もまた「去年1年間いろんな試合に出させてもらったことが経験として(自分の中で)生きている気がします」と胸を張った。
中でも忘れられないのは白鷗大と戦ったリーグ最終戦だ。
「たしか前半24点ぐらい差を付けられたと思うんですが、そこから逆転勝ちしたんです。あのとき先頭に立ってチームを牽引してくれた杉浦(佑成、サンロッカーズ渋谷)さんや青木(保憲、川崎ブレイブサンダース)さんの『絶対あきらめない』という姿勢が今でも忘れられません。今、どんなに劣勢になっても前を向けるのは、やっぱり去年見た4年生の背中や、あきらめなければ24点差だってひっくり返せるんだという経験があるからだと思います」
今年の筑波大を引っ張るのは自分と増田の3年生コンビだという自覚もある。「だけど、それでも4年生の存在は大きいです。一緒にコートに立つ玉木さんはもちろんですが、この大会で弱気になりかけたときベンチから『大丈夫、まだまだいける』と声をかけてくれた波多(智也)さんや(青木)太一さんに助けられました」。ケガで戦線離脱している波多がコートに戻ってきたら「もっと2番、3番を回せるようになると思うので、僕がポイントガードをやる時間帯をもっと安定したものにしたいです。それはこれからの自分の課題でもあります」。
苦しみながら達成した春の3連覇がまた1つチームの財産になったのは確かだ。だが、敗れたどのチームも『春の経験』を財産にして秋のリーグに向かっていく。
「優勝できたのはうれしいけど、秋は厳しくなるぞという気持ちは今からめちゃくちゃあります」。だからこそ、自分たちに必要なのはさらなるチャレンジャー精神。昨年逃したリーグ戦とインカレのタイトル奪回のためにも「ここからまた強い筑波を目指して頑張っていきます!」――力強い最後の言葉にはエースとしての覚悟がにじんだ。
文・松原貴実 写真・吉田宗彦