2年連続残留プレーオフに回ることが決まってしまった横浜ビー・コルセアーズ。開幕4戦目で先発メンバーの湊谷安玲久司朱選手とジェイソン・ウォッシュバーン選手をいきなりケガで欠く苦しいスタートだった。さらに昨シーズン同様、ヘッドコーチが途中で契約解除される由々しき事態に陥ったが、昨年12月と早くに手を打ったことが救いでもあった。
ふたたび尺野将太ヘッドコーチが指揮を執ることになったが、昨シーズンのBリーグチャンピオンである栃木ブレックスを率いたトーマス・ウィスマンコーチをアドバイザーに迎えたことで、同じ位置にいるがその雰囲気は全く違う。昨シーズンは3月末にヘッドコーチが代わり、為す術が無いままズルズルと泥沼に引きずり込まれていくような状況だった。しかし今は尻上がりに調子を上げている。途中加入のウィリアム・マクドナルド選手がフィットしはじめ、佐藤託矢選手がオンザコート1の時間帯に身体を張り、インサイドの核ができた。ここ1ヶ月は6勝5敗と勝ち越している。「それが今日のゲームに出たかな」と尺野ヘッドコーチも自信を伺わせていた。
「主力が欠けた中でも他の選手が点数を獲り、うまくクリエイトできないときはディフェンスからしっかり走ることができている。昨シーズンはなかなかなかったファストブレイクからの得点も伸びている。昨シーズンから大きくメンバーが変わっていないことで、お互いの足りない部分を補い合うことができている。今日は温存した川村選手もここ最近は調子が良く、20点を超えるゲームも非常に多い。コンディションさえ戻ってくれば間違いなく彼は仕事をしてくれる。このメンバーでしかできない良いバスケットの形が徐々に表現できるようになっている」
ベテランとともに、田渡凌選手と満田丈太郎選手の2人のルーキーも躍動し始めていた。
理想のプレースタイルをどれだけチームのスタイルに合わせて行くかがゴール
「ここ数試合、僕自身のプレーはあまり良くなかったです。トム(ウィスマン)コーチや川村さんには、自分のリズムで活躍できるパフォーマンスを出さなければいけないと言われました。今週は『行くぞ』とヘッドコーチにも言われ、その言葉は大きかったです。常に準備はしていますが、これまで以上にアグレッシブに行こうと決めていました」
そう話す田渡選手は、名古屋D戦前の直近6試合では平均1.3点/0.8アシストとスタッツを残せていなかった。しかし、積極的に臨んだ名古屋D戦の初戦は14点/5アシスト、翌日も12点/2アシストと9試合ぶりに二桁得点を挙げている。
「自分の理想のプレースタイルをどれだけチームのスタイルに合わせて行くかがゴールだといつも考えています。それを見失った試合もあれば近づけた試合もある中で、コンスタントにできていない自分に腹立たしく、一番の課題でもあります。ダメな日はパスして終わってしまうことも多かったです。一番大事なことはアグレッシブに行くこと。それが自分の長所であるわけだから」
ベテランが多い横浜のチームメイトたちも、「もっと思い切りやれ」と背中を押してくれている。ようやく「自分の仕事が明確になってきた」ことで、名古屋D戦ではしっかり結果を残すことができた。しかし、ポイントガードとしてチームを勝たせられなかったことは反省点である。
「このような接戦は個人として経験にはなっていますが、チームにとっては毎試合が大事であり、負けた試合は帰ってきません。自分の不甲斐なさや足りない部分は痛感しています。この試合でターンオーバーし、シュートを決められなかったことでチームを勝たせることができず、そこは反省しなければなりません。接戦の中でもシュートを決められる川村さんのようなすごい人が身近にいるわけですから、練習から多くのことを吸収していくしかないです」
アドバイザー加入後、コーチとのコミュニケーションが活性化
田渡選手はポイントガードとして、ヘッドコーチとコミュニケーションを取る機会を求めていた。しかし、途中で交代する落ち着かないチーム状況であったとともに、横浜自体が「コーチとコミュニケーションを取る機会もあまりなかった」ことにためらいがあった。それを変えてくれたのが、ウィスマンコーチである。
「やっぱり自分がダメなときにダメと言ってくれる人が必要だったんです。間違ったプレーを気付かないままやっているときに、トムコーチは『そうじゃない』といつもアドバイスをしてくれます。今日も試合後に、細かい点を指摘してくれました。ネガティブな話だけではなく、良かった点やあのプレーがこのチームには必要だからもっと続けてくれなどとも言ってくれます。日本で優勝経験あるコーチなので信頼していますし、その言葉が自分にとってはすごく大きいです」
コート上ではディフェンスでのハードさが増し、川村選手だけを見てしまって停滞していたオフェンスも動きがスムーズになり、ウィスマンコーチ就任後の変化は現れている。だが、現段階は良い試合はできていても、勝ち星につながらないもどかしさを田渡選手も感じていた。
「各々の役割は、シーズン当初に比べれば明確になっており、そこをもっと徹底し続けなければならないです。強いチームはやっぱり簡単に崩れないけど、僕らにはまだ崩れてしまう時間帯があり、それを少なくすればどのチームとも戦えるとトムコーチも言ってます。京都に勝てたのもそうです。詰めの甘さがあり、それは僕のターンオーバーでもあるので、そこは無くしていかなければならないです」
チームとしてもう一段階高いレベルでのプレーをできるようにしたい
尻上がりに調子を上げてきており、何よりも湊谷キャプテンが戻ってきた。残留プレーオフではあるが、さらなる試合に臨めることをプラスに捉えることだってできる。尺野ヘッドコーチは言う。
「ベテランが多いので、試合数が増えるのは厳しい部分はあるかもしれないが、今日も最後に竹田(謙)選手が活躍(12得点)してくれたり、ウィル(マクドナルド)選手は延長戦になってもあれだけ点数(6点/合計21点)を決めてくれたベテランの活躍も大きい。残り3試合でしっかり成長して、残留プレーオフで今年積み上げてきたことを発揮し、チームとしてもう一段階高いレベルでのプレーをできるようにしたいです」
残留プレーオフは、5月11日(金)12日(土)に横浜文化体育館での開催が決まった。しかし昨シーズンを振り返れば、秋田ノーザンハピネッツはホームで敗れており、そこで辛勝したのが横浜だった。「勝率で上回っているし、ホームだから勝てるという雰囲気は僕らの中にはない。そう思ってしまったら絶対に負けるという危機感を持っており、準備はできています」と田渡選手はさらに気を引き締めている。残留プレーオフは、チャンピオンシップ同様にレギュラーシーズンとは異なる雰囲気の中での戦いを強いられる。そこでしっかり勝ち切ることができれば、B1残留とともにプラスアルファの何かを得られるかもしれない。
文・写真 泉 誠一