12月16日、「Wリーグ 三井不動産オールスター 2017-18 in TOKYO」(この試合の模様はW-TVで配信中)には、2009年に初めて結成された女子U16日本代表メンバーが5人も選出されていた(藤岡麻菜美選手、宮澤夕貴選手〈ともにJX-ENEOSサンフラワーズ〉、長岡萌映子選手、馬瓜エブリン選手〈ともにトヨタ自動車アンテロープス〉、近平奈緒子選手〈アイシンAWウィングス〉)。さらに、翌年のFIBA U17世界選手権にケガから復帰し、ともに世界と戦った三好南穂選手(トヨタ自動車アンテロープス)も含めて、同世代から6人が盛大な『表』のオールスターで競演。その『裏』で行われていたもう一つのオールスターには、同じく世界に挑んだ根岸夢選手(三井住友海上)の姿があった。当時の女子U16日本代表はアジアで準優勝し、FIBA U17世界選手権(現ワールドカップ)ではロシアを破って世界5位。まさに黄金世代である。
バスケをしているときは息抜きにもなる!
「OBの方から新たに女子バスケ部を作るにあたって募集しているというお話があり、採用試験を受けて合格しました」
ひょんなことから大正7年(1918年)設立、来年で100周年を迎える三井住友海上に就職。98年目にして新たに誕生した女子バスケ部の発足メンバーとして、根岸選手は活躍していた。関東実業団女子リーグは2部構成となっており、三井住友海上は現在2部。2年連続2部で2位の成績を残し、入替戦に挑むが「2部と1部とではその差がすごくあります。入替戦では歯が立たず、今年も全然ダメでしたね」というのが現状のレベルだ。
2部から唯一、関東実業団・関東大学オールスターゲームに根岸選手は2年連続で選出されている。
「今年の国体メンバーにも選んでもらっていますが、私が国体やオールスターに参加させてもらってることで、できたばかりの三井住友海上のバスケットの宣伝にもなると思ってます」
そんな使命を感じて臨んだ昨年のオールスターは先発を任された。2年目になった今年は、「練習していないんで、なかなか出られなくなるもんだな、と痛感しました」と言うのが率直な感想である。
「平日は仕事があるのでなかなか練習はできないです」と忙しい日々を送っており、チーム練習は毎週土曜に1度だけ。「今朝はジムで走ってから来ました。見えないところでがんばらないといけないタイプなんで」と準備してきたが、無得点に終わっている。それでも大学卒業後、再びコートを走っている姿を見られたことがうれしかった。
「仕事をしていれば、なおさらバスケが好きだなって思います。息抜きにもなります」と今の環境を楽しんでいる。学生時代は当たり前のように体育館があり、イヤでも毎日のように練習がやってきた。大人になり、いざその環境がなくなると余計にバスケがしたくなり、さらに好きになってしまう気持ちはすごくよく分かる。
大学4年間で開いてしまった仲間たちとの差を実感
東京成徳大学高校時代、最後のウインターカップは準々決勝で札幌山の手高校に敗れた。根岸選手は26点を挙げ、その年の優勝校を相手に80-87の惜敗。当時、Wリーグからの誘いもあったそうだが、すでに進学を決めていた根岸選手の耳には届いていない。
早稲田大学に進学した後も輝かしい成績を残してきた。入学当初から活躍し、2年次から先発で起用される。そして3年次には日本一へ導く原動力となった。翌2015年、準決勝でアメリカと2度にわたる延長戦の末に敗れたが、世界4位となった女子ユニバーシアード日本代表メンバーの一人でもある。しかし、学生最後のシーズンは下級生の台頭などもあり、出番が少なくなっていった。
4年の間に、「Wリーグに行った選手たちとの差は歴然でしたね。こんなにも変わるのかと試合をすると思わされます」と皇后杯などで対峙すれば、レベルの差を目の当たりにした。だが、大学に行ったからこそ得られたものも多い。
「違う分野の友達がいっぱいできました。それに比べてWリーグに行くとバスケだけになってしまうので、みんなも『友達がいない』ってよく言ってます(笑)。そういうのを見ると、大学に行った方が広い視野を持って今後の人生も選択できるかなって思います」
常に日本一を目指し、日の丸を背負えば世界と真剣勝負を繰り広げてきたアスリートとしての情熱も忘れてはいない。
「今年のユニバを見ていて、もし(Wリーグに行って)続けていたらそのメンバーに入れていたのかなぁとか思ったり、挑戦したい気持ちもありました。その中に自分がいないことをすごく悩みました」
第3者だからこそできることがある!今は全力で同期を応援
苦楽をともにしてきた仲間たちはWリーグや女子日本代表で活躍し、東京オリンピックというさらに大きな目標に向かっている。そのレールから外れたことに寂しさがないと言えば嘘になる。一方で、外側にいるからこそ分かることもある。それを気付かせてくれたのは、「第3者として見てくれる目線がすごく必要だし、メッチャ感謝している」という藤岡選手の言葉だった。お互いに大学に進学したことで共有できる話題も多く、今なお深い交流は続いている。そんな親友の言葉を受け、「これで第一線に戻る選択肢はもうないな」と腑に落ちる。それは諦めたわけではない。大学、実業団でプレーし、みんなとは違う道を歩く根岸選手だからこそできる居場所を見つけた。
「ちょっと離れた目線から、もっとバスケットが良くなるようにしたい。今、男子は盛り上がっていますが、実際は女子の方が強い。でも、目立ってない。男子の方が話題性があるのはしょうがないですが、もっと盛り上がって欲しいなと思います。ん〜〜何なんですかね。結局、何をしたいんだろう?笑」
自問自答しながらも芯はブレてはおらず、「やっぱりバスケが大好きなんだなって思います」
現役を続けている情報を得てはいなかったが、バスケ好きな根岸選手の姿はWリーグなどバスケ会場で目にする機会も少なくはなかった。今では「絶対にオリンピックを目指せない」立場となったが、その目標に向かう仲間たちを全力で応援している。
「一緒に戦ってきた仲間たちが活躍しているのが今はうれしい。もちろん先輩もいるし、日本代表が活躍していることがうれしいですが、同期が活躍しているのはすっごい刺激になります。仕事をしていると、どうモチベーションを持っていくかというのは難しい部分もありますが、目標に向かってがんばっている仲間たちを見て、私もがんばろうってすごく力をもらってます。ただ……同時に負けたくないなとも思ってます」
負けず嫌いは変わらない。立場は違えど、まだまだしのぎを削り合う良きライバルなのだ。
様々な経験をしている第3者に対し、同期の仲間たちから相談を受けることも多いそうだ。
「外から見ているからこそ、いろんなことに興味があり過ぎちゃう。どうして良いかは分からないけど、バスケが好きだし、みんなが活躍できる場をサポートできれば良いかな」
外側にいるからこそ、バスケとの関わりは無限大である。
■第1回女子U16日本代表メンバー
4 ヒル 理奈(桜花学園高校/ルイジアナ州大(LSU)〜トヨタ自動車アンテロープス)
5 出水田 理絵(津商業高校/大阪体育大学〜トヨタ自動車アンテロープス)
6 藤岡 麻菜美(千葉英和高校/筑波大学〜JX-ENEOSサンフラワーズ)日本代表
7 武田 綾華(桜花学園高校/東海大学)
8 根岸 夢(東京成徳大学高校/早稲田大学〜三井住友海上)
9 池谷 悠希(富士学苑高校/三菱電機コアラーズ)
10 大沼 美琴(山形市立商業高校/JX-ENEOSサンフラワーズ)
11 長岡 萌映子(札幌山の手高校/富士通レッドウェーブ〜トヨタ自動車アンテロープス)日本代表
12 菅原 絵梨奈(桜花学園高校/山梨学院大学〜日立ハイテククーガーズ)
13 宮澤 夕貴(金沢総合高校/JX-ENEOSサンフラワーズ)日本代表
14 近平 奈緒子(聖カタリナ女子高校/シャンソン化粧品シャンソンVマジック〜アイシンAWウィングス)
15 馬瓜 エブリン(東郷町立東郷中学校/桜花学園高校〜アイシンAWウィングス〜トヨタ自動車アンテロープス)日本代表
※()内は当時の所属高校と分かる範囲でのその後の所属チーム
関東実業団バスケットボール連盟
三井住友海上火災保険株式会社
文・写真 泉 誠一