1月6日の天皇杯準決勝第1試合、京都ハンナリーズを100-63で下した千葉ジェッツふなばしが2年連続決勝の舞台に駒を進めた。今大会、故障の富樫勇樹に代わってスターターとなったのは千葉に移籍して4年目を迎えた西村文男だ。準々決勝の栃木戦は最終ピリオドに猛追される場面もあったが、34分20秒コートに立ち16得点をマーク、大差がついた京都戦では約18分52秒の出場にとどまったが、4/5の3ポイントシュートを含め15得点の活躍でチームを勢いづけた。昨シーズンはケガに泣く時間が長かっただけに、今年に懸ける強い思いが伝わる。西村にとってようやく『本領発揮』の舞台が巡ってきた。
富樫の欠場が決まり、代わってスターターとなる話を聞いたのは大会初戦(栃木戦)の前日だったという。今シーズン初めての先発ということで、気持ちが昂るようなことはあったのだろうか。
「いえ、それはなかったですね。気負いもなければ、緊張することもなかったです。これまでも自分はそういうことに左右されないバスケットを貫いてきたつもりなので(先発出場という話も)淡々と受け止めました。わりとメンタルは強いのかもしれません(笑)。それは自分の強みだと思っています。ただうちは出だしが悪いゲームが結構多くて、そういうときは全体の内容もよくないので、出だしの勢いだけは意識しました。大野(篤史ヘッドコーチ)さんがいつもプッシュ、プッシュと言っていることもあり、セカンドで出ていたときよりもボールを前に出そうと、それは心がけていますね。今日は100点ゲームになりましたが、京都は波に乗せたら大量得点もあり得るチームです。昨日の西宮ストークス戦でも3ポイントシュートの確率は60%ですからね。多少点差があっても何が起こるかわかりません。そのためにもまず最初が肝心だと思っていました。スタートを制したチームが40分間優位に立つことが多いので、やはり試合の入りはものすごく大事です。だから多少無茶しても最初はちょっと飛ばそうと、それは自分のゲームプランとしてあって、ある程度落ち着いたらいつものバスケをしようと考えていました」
昨年は天皇杯初優勝の栄誉に輝いたが、今年のチームにはそれ以上の『力』を感じている。練習後にはプレーについて選手同士で話し合うことも少なくない。以前取材に訪れたときはアキ・チェンバースと石井講祐にしきりにアドバイスする姿が印象的だった。
「アドバイスというほど大げさなものじゃないですけど、あそこはこうした方がいいんじゃないかとか、こうしてほしいというような話はよくします。今年は聞く耳を持ったメンバーが揃っているんですよ。だから自分の意見も言いやすいし、自分から言うことも多いですね。僕は今年のチームは“個„にさえならなければすごく強いと思っています。インサイド、アウトサイドともにバランスは取れているし、個々に力のある選手が揃っています。だけど、それぞれが“個„で戦おうとするときは間違いなくうちの負けパターン。それさえなければ『うちは強い』と言い切れます」
天皇杯2連覇まであと1試合。富樫に代わるポイントガードとして、どのようにチームを牽引していきたいと考えているのだろう。
「僕も31歳になってベテランと呼ばれる域に入ってきました。若いときと違ってきたのはチームにとってポイントガードというポジションがどのようなものかとより考えるようになったことです。このポジションの大事なところは何かということですね。その中で、チームのためにいい意味で自分を殺す、自己犠牲しながらバスケットをすることを覚えました。言葉だけを捉えると誤解を招くかもしれませんが、要は自分が裏方になっても周りを生かすということです。うちは走れる選手、点が取れる選手が揃っているので、まずその利点を生かすことが大事。もちろん、自分が行けるときは行きますし、打開しなければならない局面では切り崩しにも行きますが、その前に周りを生かしていかに効率よく点を取るかを考えます。さっき言ったようにうちの個々の高い能力を“個„にしないことが自分の役割だと思っています」
決勝戦の相手はシーホース三河に決まった。今シーズン初の対戦となるが「自信はあります」と、きっぱり。相手をスカウティングしてそれによって対策を練り、戦術を考えることは当然必要となるが、最も重要なことは「自分たちの持ち味を出し切って戦うこと」。
そうするためには「やはり入りを大事にして先に流れをつかみたい」と語った。スピードスターの富樫は不在だが、目指すのはそれをマイナスにしない戦い方。31歳の経験値を武器に2年連続の頂上へチームを牽引したいと考えている。
文・松原貴実 写真・安井麻実