アースフレンズ東京Zとの初戦は95-40と、55点の大差をつけてライジングゼファーフクオカが大勝した。「2日目の東京Zは強い。1点差で良いからとにかく勝ちきろう」と河合竜児ヘッドコーチはチームの士気を高め、2戦目に臨んだ。東京ZはB1から降格してきた秋田ノーザンハピネッツや仙台89ERSにも、2日目にリベンジし金星を挙げている。福岡にとっては、1日おきで5試合を戦わなければならない過密日程を考慮し、万全ではないエリック・ジェイコブセン選手の出場を見合わせた。「練習でもエリックを欠いたことはなく、この緊急事態でも選手たちはしっかりファイトしてくれたがんばりに尽きる」と69-65で接戦を制した試合を河合ヘッドコーチは評価する。21勝目を挙げるとともにB2で一番少ない2敗を守り抜いた。
ひと通りヤンチャを終えたベテラン選手たちが奏でるケミストリー
B3から昇格したばかりの福岡にも関わらず、秋田に並ぶ開幕から12連勝を記録。天皇杯3次ラウンドでは大阪エヴェッサを破り、B1昇格へ向けて好調に突っ走っている。だが、河合ヘッドコーチは、勝ち星を重ね始まるまでは半信半疑のまま、開幕前から不安な日々を送っていた。
「旧NBLの選手たちのプレースタイルが分からず、昨シーズンはB2(愛媛オレンジバイキングス)で指揮していたのでB3の試合も見ていない。さらにチームへの合流が7月末と遅れたことで不安しかなかった」
それらを払拭し、結果に結びつけてくれたのが平均30.5歳のベテラン選手たちである。
「年齢も平均的に高いことで言いたいことを言い合えるし、細かいところまで話し合えるのが良いところです」と31歳の山下泰弘選手は、同世代が多いことを利点として考えている。河合ヘッドコーチも、「ひと通りヤンチャし終わった選手たちなので、コーチの声に耳を傾けてくれる。僕としては非常にやりやすい」とお互いにコミュニケーションが取り合える良い関係がチームを軌道に乗せた。
昨シーズン、福岡出身の選手を中心にリクルートしながら大きく戦力を入れ替え、チーム名も変わり、心機一転Bリーグに参戦。「寄せ集めのチームとしてゼロからのスタート。各々のバスケットスタイルでやっていたので、東芝時代は当然だと思っていたことが当然ではなくなり、考え方なども違うまま本当に個の力だけでやっていた感じがしました。バスケットの違いにすごく苦労しました」と山下選手は振り返る。移籍前の東芝(現川崎ブレイブサンダース)ではそれぞれの役割が明確だったが、B3は福岡も含めて個での戦いに戸惑いも感じていた。シーズン中にヘッドコーチが交代したり、チームとして万全とは言えない中でも46勝6敗でB2昇格を決めた。
「いかなる状況でも負けないチーム」を目指すのが今シーズンの福岡である。開幕1ヶ月目に小林大祐選手が骨折したことで主力を欠き、大きな痛手を負っている。東京Z戦ではジェイコブセン選手がいない状況下での試合を強いられもした。それでも2敗しかしていない。山下選手は、「今、誰かがいなくなっても他の選手がカバーできる良い循環ができています。正直言って、小林大祐がケガをしたときは不安でしたが、それを他の選手がしっかりとカバーし、今はチームとして戦えています。今日の試合もエリックがいなくても勝てたことはひとつの収穫でした」と昨シーズンとは違い、チームとして戦えていることに大きな手応えを感じていた。
移籍してプロに行く選択をするつもりもなかったサラリーマン
もともと企業チームで働きながらバスケをしていた山下選手。見た目やその振る舞い、プレースタイルからしても、東芝時代のメンバーの中では一番堅実であり、脱サラするようなタイプではないと思っていたので、移籍したことは大いに驚かされた。「僕自身も家族がいるので、そんな選択をするつもりもなかったです」と同じ考えだったことに二度驚かされる。地元福岡に帰る決心は、「小林大祐と話をしたとき、僕と一緒ならば帰ると言ってくれたことでおもしろいと思ってしまいました」。堅実なサラリーマン気質も今では、「下から這い上がることがおもしろい」とプロとしての顔を見せていた。
「とても充実はしていますが、今の実力や環境も含めてまだまだ納得はできていません。もっともっと向上していかなければなりません。覚悟を持って福岡に戻ったので、チームを強くするだけではなく球団全体のレベルをアップさせ、B1に昇格したい。今は関東に強いチームが固まっていますが、そのバランスを良くするためにも九州から強いチームを増やしてBリーグ全体を盛り上げるための力になりたいです」
こんなプロらしい決意を聞けば、人はいつでも変われるものなのだ、と勇気づけられる。
天皇杯3次ラウンドではB1の2チームと対戦。「体感としてはまだまだだな、と当然感じています。今、B1に上がったらそこそこは勝てるかもしれませんが、トップにはいけないという差は感じています。今のうちからしっかりと力をつけ、B1でも勝てるチームになれるようにしながら昇格を目指したいです」とさらなる先を見据えていた。
ホームでの勝利を死守し、年を越そう!
河合ヘッドコーチは、「オフェンス力で圧倒できればレギュラーシーズンは勝てる。でも、プレーオフはまた違う。プレーオフを勝つにはディフェンスが必要」と考え、それがチームのベースとなっている。B2で最も高い勝率を誇る福岡だが、いずれも接戦をものにしただけであり、その勝率だけで強いチームと錯覚しないよう戒めている。失点数にもそれは現れており、平均70.6点は秋田の平均66.3点をはるかに上回っている。「目標としては60点台に抑えるゲームであり、それは昨シーズンB2で圧倒していた島根(スサノオマジック)の成績が参考になっている」と河合ヘッドコーチは指針を示し、ディフェンスから負けないチームを目指していた。
もうひとつ、「ホームでの勝利を死守すること」も大きなモチベーションとなっている。福岡は唯一ホームで負けていない。ハードなスケジュールとなる今週は12月20日(水)に広島ドラゴンフライズ、1日空けて22日(金)より西地区2位の愛媛オレンジバイキングスとの連戦が待っており、ホームで連勝を続けるためにも最大の山場を迎える。「ホームでの勝利を死守し、年を越そう」を合い言葉に3連勝を目指すだけだ。
月曜日に行われた東京Z戦には古巣のチームメイトである藤井祐眞選手とルーキーの小澤智将選手が応援に駆けつけた。小澤選手は昨シーズン、試合に出る機会はなかったが特別指定選手として福岡の一員だった。試合後、山下選手は仲間たちと話を交わしている。
「久しぶりに話せたことがすごくうれしかったです。恥ずかしいプレーを見られたくなかったですが、今日のパフォーマンスはあまり良くなかったです。本当は良い意味で『ヤバいな』と思わせたい気持ちがありました。一緒にがんばって、いつかまたトップレベルで試合がしたいですね」
クラブの運営状況も判断材料となるが、チームの実力だけで言えば、それが実現する日も近そうだ。
文・写真 泉 誠一