今夏、女子ユニバーシアード日本代表を率い、世界2位となって銀メダル獲得に大きく貢献した白鷗大学の佐藤智信ヘッドコーチ。その代償として、一番大事な夏の時期にチームを留守にしてしまった。これまで3年連続決勝の舞台に立ち、昨年は悲願の日本一に立ったディフェディングチャンピオン。だが、最終日の第1試合を前に「こんな早い時間に試合をする予定ではなかったのだが……」と悔しい思いを漏らしていた。
3位に終わった今年のインカレに対し、「それは僕の責任である」と佐藤ヘッドコーチは総括する。
「実質リーグ戦で関東3位となり、(第1)シード権を取れなかったことが大きな問題。でも、春のトーナメントはベスト16で(筑波大学に)負けて、リーグ戦も負けました。その中でも選手たちは成長し、本当によくここまで来たという思いもあります」
間に合わなかったチャレンジャー精神
準決勝では、東京医療保健大学に71-81で敗れた。「3年連続決勝に残っていたので悔しい気持ちが尾を引き、夜もずっと悔しかったです」とキャプテンの星香那恵選手は、眠りにつくまで気持ちを切り替えることができなった。「昨年の我々みたいな感じで勝利に対する執着心が強かった」と佐藤ヘッドコーチは感じていた。日本一になったことでチャレンジャー精神の意識が欠けていたかと言えば、そうではない。
「間に合わなかった……その気持ちはあったけど、チームとして作っていく時間が足りずに間に合わなかったという感じが強いです」
佐藤ヘッドコーチが留守の期間、「選手同士で注意し合いながら、ディフェンスの練習を多くし、下級生も4年生もみんなで声を出して良い雰囲気で取り組めていました。だからこそ決勝には行けなかったですが、3位まで来られたのだと思います」と星選手が言うように、選手たちが率先して強化をしてきた。
優勝した昨年は全てにおいて4年生がリーダーシップを発揮し、その背中を見せながら後輩たちを導いてくれた。
「先輩って恐いイメージがあるけど、自分はメチャメチャ後輩とも仲が良く、逆にいじられている感じです。私生活から仲良くして、たくさんコミュニケーションを取るようにすることは、後輩が来た2年生になったときから心がけて良い雰囲気を作るようにしていました」
4年生となった星選手はそのキャラクターを生かし、昨年とは違うアプローチでチーム力を高めていた。
国際試合の教訓を生かし「フリースローに集中しろ」
桜花学園出身の3年生、上田祐季選手は「何度も対戦してきたことで相手に対策され、裏をかくプレーが全然できませんでした」と東京医療保健大学戦を振り返り、反省点を挙げた。高校時代からずっと決勝の舞台に勝ち進んできた彼女にとって、3位決定戦は初めてのことであり、「悔しいです」と歯を食いしばった。
ポイントガードの上田選手は佐坂樹選手やシラ ソハナ・ファトー・ジャ選手のインサイド陣へ強気にボールを入れていく。「ソハナの方が大きいので裏パスも利きます。ディフェンスが中に寄ったら外の3Pシュートも生きてくるので、ソハナや佐坂を使ったインサイドから外のプレーとの連携をもっとできるようにしたいです」と3位決定戦から来年へ向けたシミュレーションは始まっていた。
その3位決定戦は鹿屋体育大学を90-56で一蹴し、しっかりとラストゲームを勝ち切って終えている。どんなに点差が開いても「フリースローに集中しろ」と佐藤ヘッドコーチは声をかけ続けた。
「フリースロー1本1本の積み重ねが大事であり、常に100%決めるように言ってます。また、フリースローのときのリバウンドもしっかり獲りにいくことを徹底させ、必ず体をぶつけるようにもしています。国際大会でもフリースローを外し、リバウンドを獲られてやられたケースがたくさんありました。細かいことだが、そこは徹底しようというのがチームの約束事」
佐藤ヘッドコーチは国際試合の教訓を生かし、白鷗大学から世界基準のバスケットを注入していた。
星選手以外、主力は3年生以下が務めていたが、「それは他のチームも同じこと」と佐藤ヘッドコーチは釘を刺す。ライバルとなる関東女子大学勢もまた下級生が主力であり、来年はさらに熾烈な戦いが待っている。「今はもう飛び抜けたチームがなく、本当にがんばったところが勝つ」と断言しており、日本一奪還へ向けた努力も倍増しなければならない。
終わった瞬間、「今年の悔しさを倍返ししたい気持ちです。選手たちこそ、そう思っていると思います」という佐藤ヘッドコーチの目はメラメラと燃えていた。
チームを去る星選手は「来年は絶対に優勝してくれると思うので期待しています。来年のキャプテンはたぶん三木(里紗)。彼女はお母さんみたいな存在なので、チームをしっかりとまとめてくれると思います。がんばって欲しいです」と後輩たちにバトンを渡した。その星選手の次なるステージはWリーグだ。
「試合に出るのも簡単ではないと思うので、まずは試合に出られるようになることからがんばって、少しのプレータイムでも自分の持ち味を出せるように次のステージでもがんばりたいです」
文・写真 泉 誠一