最終戦を前に中央大学は関東大学2部リーグの優勝、そして4年ぶりの1部返り咲きを決めた。1部昇格へ残る1枠を懸け、13勝4敗で並ぶのが日本体育大学と神奈川大学だ。2週間前は首位に立っていた神奈川大学だが、前節で中央大学と日本体育大学との直接対決に敗れ、3位に陥落。
2位と3位では天と地の差がある。2位になれば1部昇格とともに、今年の1部下位チームとの順位決定戦に挑むことができ、何よりもインカレ(全国大会)が待っている。しかし、3位になってしまうと昇格の道を断たれるだけではなく、今シーズンが終わってしまうことも意味していた。直接対決の結果で上回る日本体育大学が半歩リードし、どちらにとっても負けられない最終戦が始まった。
神奈川大学 84-56 国士舘大学
先に試合に臨んだのは神奈川大学、1周目は75-73で辛勝している国士舘大学と対戦。立ち上がり、オフェンスリバウンドを獲ってチャンスを広げる神奈川大学だったが、なかなか得点が決まらない。第1クォーターは16-18と国士舘大学に先手を取られる。第2クォーター、1年生の小酒部泰暉選手がリバウンドを獲ってセカンドチャンスを決めるとすぐさま逆転に成功。しかしその後は緊張感ある攻防が続き、33-30で前半が終了。神奈川大学が辛うじてリードし、後半へ向かう。
フルコートプレスディフェンスで相手のミスを誘い、次々と得点を重ねていった神奈川大学が45-35、後半開始5分で10点のリードを奪った。勢いを増す神奈川大学は、阿達隼人選手を起点に長年培ったコンビネーションプレーが冴え渡り、7連続得点でさらに突き放す。国士舘大学に付け入る隙を与えず、84-56で快勝。14勝4敗と先に1勝を積み上げた神奈川大学は、次の試合に向かう日本体育大学へ無言のプレッシャーをかけることに成功した。
中央大学 80-74 日本体育大学
勝てば1部昇格、古豪復活の狼煙を上げたい日本体育大学の相手は、すでに優勝を決めた中央大学である。スタンドから「頼む!もう優勝が決まってるんだから勝たせてくれ」と日本体育大学らしいユーモラスな声援が飛ぶ中、運命の最終戦が始まった。序盤から身体を張った気迫溢れるプレーで日本体育大学がイニシアチブを取っていく。第1クォーターだけで15点を挙げた田口航選手の活躍が光り、20-15と5点リードし、幸先の良い滑り出しであった。
しかし、中央大学は明成高校で日本一となった2年生コンビが勢いづける。第2クォーターは三上侑希選手が、第3クォーターは足立翔選手がどんどんスコアし、第3ピリオドが終わった時点で46-54。残る10分で、日本体育大学は8点差をひっくり返さなければならない状況に追い込まれる。
思い切り良いプレーをする中央大学に対し、後がない日本体育大学には焦りが見られ、シュートが消極的になっていた。最後までプレッシャーをかけて守り続けたが、点差を縮められずに74-80で日本体育大学は力尽き、1部昇格のチャンスを掴むことはできなかった。
神奈川大学:どこにも負けない情熱を原動力に2年連続昇格の快挙で初の1部昇格
傷心の日本体育大学を気遣ってか、コートに降りることなく通路の奥にある狭いスペースで、創部初となる1部昇格の喜びを分かち合っていたのは神奈川大学である。
「先週負けてしまったがそれでも昇格を信じ、全力で戦う自分たちのスタイルだけは崩さないようにしよう」と幸嶋謙二監督は選手たちに発破をかけ、最後の試合へと送り出した。勝利を掴んだものの1部昇格の行方は、続く日本体育大学の試合結果に委ねられる。「自分たちの力ではどうすることもできず、自分たちの試合以上に緊張して見ていました」と言う幸嶋監督の赤くなった目が、その喜びを表していた。
昨年は3部にいた神奈川大学であり、最短の2年で1部昇格を決めたことは「周りから見ればミラクルと思われるかもしれません」と当事者である幸嶋監督も分かっている。メンバーを見れば、「センターが185cmしかなく、高校時代に全国大会に出たのも田村(大樹/帝京長岡高)くらい。でも、そういう中でもきちんと準備だけはしてきたつもりです。本当に2年前に敗れたことが大きなきっかけでした」と、3部に降格をした悔しい日を振り返る。
「2年前、僕の采配ミスによって入替戦で敗れ、3部に落ちてしまいました。そのとき、学生たちが僕を救ってくれたんです。みっともない話ですが、そのときはすごい落ち込んでしまいました。それを昨年の4年生たちが『幸嶋さん、もう一回這い上がろう』と勇気づけてくれ、それが後輩たちにもつながり、この1部昇格があります。我々はけっしてバスケットが上手いわけではないですし、サイズがあるわけでもありません。でも、情熱だけはどこにも負けない自信があります。それも2年前に敗れたときに得たものです」
上だけを見続けてきた神奈川大学の1部昇格は努力の証である。これまでの成果を試すべく、さらなる未知の戦いが待っている。
「できればインカレではベスト8以上を狙いたい。トーナメントでは中央大学に1点差で負けてベスト8に入れなかったので、もう一回チャレンジしたいです」(幸嶋監督)
神奈川大学にとっては、3度目となるインカレに挑む。
中央大学:来年の1部での戦いが早くも楽しみな厚みを増した選手層
昨年、中央大学の最終戦の相手は早々に優勝を決めた大東文化大学だった。1ゲーム差で2位の江戸川大学を追いかけていただけに、荻野大祐ヘッドコーチの脳裏には「負けてくれないかな」という思いがなかったわけではない。立場が180度変わった今年の最終戦は、昨年の経験を生かし、「あのとき、大東文化大学が全力で戦ってくれたことでチームとしていろんな成長することができました。勝ちを目指さない試合だけは絶対しないことを心がけ、最後の試合も全力で戦いました」。自分たちの力を示して日本体育大学を破り、有終の美を飾った。
3位となり、一歩届かなかった昨シーズンを終えた後、「選手層なのか、戦術戦略なのか、フィジカルなのか……選手それぞれが、それぞれの課題に向き合った1年間でもありました」と荻野ヘッドコーチは選手とともに足りない部分について自問自答を続けてきた。毎試合のように先発を変え、多種多様な組合せで臨みながら結果につなげていった今シーズン。多くの選手をコートに立たせたことは、来年の1部での戦いへ向けた準備にもなった。
「4年前に1部昇格したときは、4年生が35分間ほど試合に出続けるチームでした。翌年はゲーム経験のない選手たちばかりで、全く歯が立ちませんでした。今年はゲーム経験ある選手が8割ほど残ります。小さくてサイズもなく、日本人だけのチームですが、1部でも戦えるチームになり、ひとつでもタイトルを獲れるように努力を続けていきたいです」
選手層を厚くさせた成長の影には、4年生たちの力も大きい。「4年生がベンチから大きな声をかけてチームを支えてくれています。練習中から4年生が中心になって取り組むべきことを率先して引っ張ってくれてもいます」と荻野ヘッドコーチは労うとともに、これから始まる1部チームへの挑戦こそ、4年生の力を必要としている。
「全員が初めてのインカレ出場になります。来年、1部でプレーできない4年生たちのためにも、最後は彼らが作ってきたこのチームが、インカレの舞台でどこまでできるかを見せる場でもあります。4年生を中心にベスト4を目指してがんばりたいです」
試合を終えた後、荻野ヘッドコーチは「ここで気を緩めるな。あと2試合をきちんと勝たないとチームとしても評価されないし、周りの見る目も変わらない。あと2試合をどう戦うかを考え、ここからさらに積み上げて行こう」と選手たちに伝え、すでに順位決定戦へ向けて気持ちを切り替えていた。
1部下位チームとの順位決定戦は11月7日より駒沢屋内球技場にて行われる。2部のチームにとっては、これからが本当のチャレンジである。
東海大学(1部9位)vs 神奈川大学(2部2位)
日本大学(1部10位)vs 中央大学(2部1位)
文・写真 泉 誠一