アースフレンズ東京Z vs 愛媛オレンジバイキングスの開幕戦は1勝1敗で終えた。両チームともヘッドコーチは新任であり、お互いに初勝利を味わった。リチャード・グレスマンヘッドコーチは、渡邊雄太選手がいるジョージ・ワシントン大学と同じカンファレンスのライバルであるドゥケイン大学のアシスタントコートを経て、愛媛にやってきた。アシスタントコーチから昇格した東京Zの斎藤卓ヘッドコーチは、かつてクラブチームではオールジャパンに出場し、ストリートボーラーとしても人気を博した経験の持ち主だ。
取材したのは、88-86で東京Zが粘り勝った第2戦。「自分たちのやりたいスタイルを生かしながら勝ち切れたことは、僕にとっても、選手にとっても良い経験になりました」と斎藤ヘッドコーチは初勝利に安堵の表情を見せた。後半に対応されて71-82で敗れた第1戦の課題点を修正できたことが勝因である。
「昨日は最後のところで失速してしまいました。リッチ(モンド・ヴィルデ選手)がファウルアウトしたことで失速してしまったわけですが、今日も同様にファウルアウトをしています。でもその時に、前日の反省を踏まえて全員でカバーできたことが勝利につながったと考えています」
「敗れたこと以上に、自分たちのやるべきことに対して選手たちが集中しきれてなかったことにガッカリしました」とグレスマンヘッドコーチは嘆いていた。86点を挙げたオフェンスには満足していたが、ディフェンスが課題点として浮き彫りになる。愛媛は指揮官が合流してまだ1ヶ月弱。対戦相手はもちろんだが、チームメイトの特長を把握している途中でもある。「パス、ドリブル、シュートのそれぞれに長けており、何でもできる選手たちの特長を生かして速い展開にしたい」というコンセプトでチーム作りは始まったばかりだ。
どうせやるのであれば日本人が勝つためのバスケット
『世界に通用する日本人選手を輩出し、日本代表が世界で勝利することに貢献する』とは、東京Zが掲げるチーム理念である。外国人がフィニッシャーになる日本のリーグにおいて、「どうせやるのであれば日本人が勝つためのバスケット、日本人が世界で活躍できるかを考えながらみんなで成長していきたい」とチーム理念同様、斎藤ヘッドコーチは大志を抱く。第2戦は25点を挙げた西山達哉選手を筆頭に、柏倉哲平選手が12点・3アシスト、増子匠選手は11点・7アシストとその成果を早くも見せている。
ストリートボーラー時代の斎藤ヘッドコーチは“バスケットボールの教科書”と呼ばれ、何度もドリブルを突いてシェイクする相手をあざ笑うように、堅実なるピック&ロールでLEGEND(※かつてあった日本初のプロストリートボールリーグ)王者の座に輝いた。その経歴を振り返れば、東海大学では陸川章氏に、オールジャパンに出場した横浜ギガスピリッツでは故・小浜元孝氏、そして東京Zでは小野秀二氏と日本が強かった頃の代表に携わった名将のもとでバスケットを学んできた素地がある。加えて、社会経験もまた斎藤ヘッドコーチのキャラクターを形成していた。
「僕の強みはいろんな経験してきたことです。バスケットの知識はもちろん必要ですが、それ以外の部分で強みを見せることが僕の持ち味だと今は考えています。サラリーマンとして長い期間、会社という組織で働いた経験がありますし、学校というある意味オープンではない組織で仕事をしたこともあります。人と関わる仕事を長いことしてきたことでヒューマンスキルやモチベーションの作り方というのは、バスケット畑でずっとやられてきた方とは違うアプローチができると考えています。僕だからこそできるチームマネジメントを見つけていきたいです」
「愛媛をとても気に入っています」「雄太はNBAに挑戦すべき選手です」
NCAA Div1のアシスタントコーチを11年も務めながら、39歳のグレスマンヘッドコーチは新天地として極東のバスケットボール後進国にある、しかも2部リーグの道を選んだ。「チームの特長として、また私がやりたいバスケとして、速い展開のバスケットを目指しています。一番重要である自己中心的にならず、個人個人がプレーをするように指導しています」と話し、選手との信頼関係作りも始まったばかりである。
勢いが良いときはチームとして盛り上がっていたが、いざ劣勢に立たされると一変する。交代を告げられた選手が、ヘッドコーチの助言を聞かずにベンチに座った。その光景を見ていて、グレスマンヘッドコーチが「ガッカリさせられた」というのと同じ気持ちになる。若く、元気の良いオレンジ軍団という印象があっただけに、最後の場面でチーム一丸となりきれなかったのが敗因のようにも感じられた。だが、グレスマンヘッドコーチは選手たちを高く評価しており、時間が解決してくれるはずだ。B1昇格を目指すとともに、11月26日にホーム愛媛で行われる天皇杯3次ラウンドで対戦する三遠ネオフェニックスに挑めるチームに成長してもらいたい。
愛媛の隣、香川県出身の渡邊雄太選手とは、ワシントンDCの隣、ピッツバーグにあるドゥケイン大学で幾度となく対戦してきた。「もし、彼がこのB.LEAGUEでプレーすると言うことであれば、ぜひ僕の下でプレーして欲しいですね(笑)。雄太はものすごく上手な選手であり、対戦相手としてはものすごくイヤでした」とその印象を語ってくれた。
「雄太はNBAに挑戦すべき選手ですし、来シーズンのNBAサマーリーグではきっと活躍できるでしょう。203cmありながら3Pシュートも打てますし、運動能力も高いのですごく期待しています。友人でもあるジョージ・ワシントン大学のコーチと話した時に、バスケットだけではなく、人としても素晴らしいと聞いていますので、今後の活躍を期待しています」
ベタ褒めである。そんなNBAに近い環境にいながら、愛媛にやってきたグレスマンヘッドコーチ。今後のキャリアについては、「それはまだ分かりません。まずはこの1年をしっかり集中して戦っていくだけです」と言うとともに、今の環境が楽しそうだ。
「まだ来たばかりですが、愛媛をとても気に入っています。10月末には家族も来日する予定です。オレンジバイキングスというチームに携わることができ、そして愛媛に住むことができてとてもうれしく思っています。日本は大好きです」
次節、東京Zは再びホームゲームが待っており、B1から降格してきた秋田ノーザンハピネッツに挑む。チケットは異なるが、10月8日は片桐アリーナにてWJBL羽田ヴィッキーズvsデンソーアイリス戦が14時から行われ、東京Zのゲームとともに1日楽しめる。
愛媛は国体で盛り上がっているため、ホームゲームは来週末(10月14日-15日)となる。香川ファイブアローズとの四国ダービーは負けられない。
文・写真 泉 誠一