男子車椅子バスケットボール日本代表が世界に挑んだ「三菱電機 WORLD CHALLENGE CUP 2017」は、リーグ戦を1勝2敗で終えた。9月3日の最終日には、予選で1勝を挙げたトルコと再び3位決定戦で対戦。予選では前半にペースを握られていた点を修正し、出だしから集中して臨んだことで2クォーターに流れをつかむ。後半の各クォーターを一桁に抑え、75-39とリオパラリンピックベスト4チームを圧倒し、3位で今大会を終えた。優勝は全勝したオーストラリア、決勝を54-76で敗れたイギリスが2位となった。
「目指しているバスケットが世界に通用するという手応えを実感。オーストラリア(70-69●)とイギリス(72-65●)には、体力やメンタルが足りずに勝ち切れなかったが、東京パラリンピックまでの3年間で何をすれば良いかが分かったことが大きな収穫」と及川晋平ヘッドコーチが総括を述べ、2020年東京パラリンピックへ向けて良いスタートを切ることができた。
大黒柱とエースのいずれかがベンチにいる安心感と若手の台頭
2004年のアテネからリオまで4大会連続パラリンピック出場の経験を持つ大黒柱の#13藤本怜央選手は、「初のベンチスタート」となった。それでもベンチから声を出してリーダーシップを発揮し、流れが悪いときにコートに出ては幾度となくチームを救っていた。この日のトルコ戦でもなかなかシュートが決まらない序盤、交代で入るや否や得点を動かし、その後は1クォーターにチームが挙げた14点中12点を獲って勢いづける。
日本の新たなベースとなる「トランジションバスケット」は、極端に言えば40分間フルコートを走り続けなければならない。これまで以上にきついことにチャレンジしている。その状況下、エースの#55香西宏昭選手と交互に起用したり、または二人が一緒に出てゲームを作るなどバリエーションが増えた。二人のうち、どちらかがベンチにいることの安心感が感じられる。
そのおかげもあり、若手の台頭も今大会の大きな収穫であった。今年6月に行われたU23世界選手権では、先に「トランジションバスケット」を習得して、世界4位と結果を残したことも大きい。#5鳥海連志選手の「僕ら世代がチームを引っ張っていく」という頼もしい言葉が自信の現れでもある。
リオの時よりも強くなったことを証明できた!
切り替えを速くし、どんどん攻め込むオフェンスは躍動感があった。対してディフェンスに関しては、「フルコートでバスケットをする絵を描いているのが、リオの時とは全く違う点」と及川ヘッドコーチは言う。詳細はこうだ。
「昨年まではスキルやテクニカルの部分を追っていた。その精度を上げることでゲームのクォリティを上げようと考えていた。しかし、テクニカルな部分はよくよく考えると3Pシュートライン内の中でのことが多い。それを今年からフルコートに目を向け、インテリジェンス(知性)とテクニカル(技術)とともに、僕らスタッフが集中しなければならないタクティカル(戦術)を加えた。3Pシュートライン内の細かい動き方よりも、フルコートで考える。リバウンドを獲った瞬間、中盤エリア、自陣または敵陣に戻ってから、それぞれがどう動くかというところをバランス良く、チーム全員でフォーカスして取り組んでいる」
もう一点の変化として、手を使ってディフェンスすることでスティールを狙う意識が向上したようにも感じた。及川ヘッドコーチに伺うと、「ボールが頭の上など高い位置にあるのは、僕らにとっては一番不利な状況。低い位置で物事が起こっている状況が、僕らにとってはフェアなので、そこはスティールに行く。片手でドリブルしているということは、車椅子をコントロールするのも片手になり、必ずボールを懐に収める可能性がある。そこは全てスティールを狙うようにしている」とのことで、ディフェンスでのアグレッシブさも増していた。
まだまだ取り組み始めたばかりであり、荒削りな部分も否めない。相手にうまくリバウンドを獲られた後のディフェンスの戻りが遅かったり、逆にアグレッシブに前掛かりにプレッシャーをかけたがために、裏へパスを通されて速攻を決められてしまったり…。しかし、女子バスケの各カテゴリーや男子U19日本代表が世界で結果を残してきたのもトランジションバスケットである。狙いは間違っていない。#13藤本選手は「昨年のリオオリンピックの時よりも強くなっていることを証明できたし、多くのファンの前で熱い試合を見せることができた」と最後は胸を張るとともに、こう続ける。
「残り3年、ここがスタート地点。さらにレベルアップし、東京パラリンピックでは必ずメダルを獲れるようにしたい」
10月には来年開催される世界選手権の出場権を懸けたアジア・オセアニア予選が待っている。今大会で得た手応えを自信に変え、オーストラリアにリベンジする1位突破が目標だ。
文・写真 泉 誠一