弊誌Vol.12「CHANGE」がそろそろ全国に発送される頃である。
その中で栃木ブレックスを紹介しているが、アルバルク東京も取材候補クラブだった。なかなか調整がつかずにVol.12では取り上げられなかったが、8月26日に公開練習が行われ、話を伺う機会を得た。この日の取材申請は15社と多く、その注目の高さゆえに調整がつかなかったのも納得である。
今年6月の東アジア選手権までの約半年間、男子日本代表を世界基準へと引き上げるためにアドバイザリーコーチを務めたルカ・パヴィチェヴィッチ氏。世界との差を少しでも埋めるべく、「アグレッシブ(積極性)・インテンシティ(激しさ)・ソリッドネス(正確性)」という3つのキーワードを軸に改革を進めていった。後にフリオ・ラマスヘッドコーチが就任することが決まっていたため、短期間で伝授できることは限られる。ディフェンスの意識改革とピック&ロールの基本に専念し、日本のレベルアップに寄与してきた。その後、A東京が新ヘッドコーチとして迎える。ルカヘッドコーチの真骨頂が見られるのはこれからだ。
日本代表同様、A東京でも3つのキーワードを掲げる。「アグレッシブ」「インテンシティ」に加えて「ストロング(強さ)」を求め、ディフェンスのベース作りに勤しんでいる。一方、オフェンスでは「速攻を狙いつつ、ピック&ロールを使ったハーフコートオフェンスなどいろんな形で得点につなげたい」と、日本代表では教える時間がなかったオフェンスをどう作っていくかが注目である。目指すスタイルは明確だが、「まだまだ時間が足りない」と言う完璧主義者が、開幕までにどこまで理想に近づけられるか楽しみだ。
日本人ポイントガードをベースにチーム改革
ルカヘッドコーチが最初に着手したのが、日本人ポイントガードへのシフトチェンジである。昨シーズンはディアンテ・ギャレット選手がそのポジションを担っていた。「外国籍選手の場合、クォリティは高くなるが長いシーズンの間に怪我したときに代えがきかず、その時点でシーズンが終わってしまい兼ねない」ことを危惧し刷新した。小島元基選手を京都ハンナリーズから、安藤誓哉選手を1年間の期限付きレンタル移籍で秋田ノーザンハピネッツからそれぞれ獲得し、厚みが増す。
日本代表候補選手として幾度もルカヘッドコーチの指導を受けてきた安藤誓哉選手は、「練習自体は日本代表とあまり変わらないですが、求められている部分では代表のときよりも重要になっていることが多い」とその役割や責任の度合いは明らかに高くなっている。しかしチーム内のポジション争いは激しく、「毎日の練習で『メインは自分だ』ということをアピールし続けなければいけないし、見せていかなければいけない」と切磋琢磨している。
献身的なチームプレーが特徴的なランデン・ルーカス
カンザス大学を卒業したばかりの24歳。大卒ルーキーであり、2020年東京オリンピックの秘密兵器として期待したいのが、ランデン・ルーカス選手だ。父・リチャード・ルーカス氏は日本リーグ時代にジャパンエナジーでプレーしており、ルーカス選手も幼い頃に日本で生活をしていた。それゆえに、日本語のヒアリングはほとんど理解し、通訳を通さなくても英語で答えが返ってくる。このやりとりは桜木ジェイアール選手(シーホース三河)、アイラ・ブラウン選手(琉球ゴールデンキングス)も同じであり、帰化選手としての素質はすでに備わっていると言えよう。ルーカス選手自身も、「東京オリンピックに出たい夢はありますし、そのためにできることは何でもしたい」と意欲を示す。
大学時代は献身的なプレーで活躍していたとおり、「リバウンド、ディフェンス、そしてハッスルプレー」が自身のプレースタイルとして挙げている。だが、身体能力で恵まれている日本では得点力も求められるはずだ。
「1on1やピック&ロールから自分がフリーになって、いかに得点につなげられるかというところはチャレンジしていきたいです」
チームメイトのジャワッド・ウィリアムズ選手とアレックス・カーク選手はNBA経験者でもある。「大先輩であり、経験も豊富な選手たちです。盗めることも多くあります」と慕っている。ルーカス選手から見た日本人選手たちの印象は、「かしこくプレーし、細かいところにも気付き、そしてハードワークをしています」と感じており、チームプレーに徹することを第一に考えている。また、ヨーロッパスタイルのルカヘッドコーチのバスケットに対し、「アメリカとヨーロッパのスタイルは特にディフェンスが違います。また、ピック&ロールがオフェンスでもディフェンスでも非常に多いです」と新たな発見も多い。そのルカヘッドコーチの練習は厳しいかと問えば、隣にいた通訳の李 載勲氏とともに、大きくうなずいていた。
これまで横浜ビー・コルセアーズ、茨城ロボッツと練習試合を行ったがいずれも非公開であり、新たなA東京のお披露目試合は9月1日より船橋アリーナで開催される「アーリーカップ」となる。
「すごい興奮しているよ。会場に来てくれたファンの前で、良いプレーをお見せできるようにしたいです」と目を輝かせていた。
「優勝を目指してやるだけ」安藤誓哉
「アーリーカップも本戦という気持ちでいますし、絶対に負けたくない。優勝を目指して戦いたい」と意気込みを語った安藤選手。プレシーズンゲームの一環という考え方もあるが、「とはいえ大会なので、各チームのいろんな状況もあるでしょうが、僕たちは優勝を目指してやるだけです」と力強いコメントを続けた。
安藤選手がタレント軍団のA東京にやってきた目的は「優勝するため」と明確である。
「優勝するために、毎日厳しい練習に取り組んでいます。個人的にはタレントが揃っているこのチームの中で、優勝するためにどうリーダーシップを発揮して、自分のアグレッシブさを味付けしていくかを考えています」
取材時の体育館は肌寒いほど冷房が効いていた。だが、コート上の選手たちはダラダラと汗を流している。インサイド陣はつかみかかりそうな勢いでポジション争いをし、唯一の日本人ビッグマンである竹内譲次選手も身体を張って負けていない。ルカヘッドコーチは、そのベテランの取り組む姿勢に、「若い選手たちの良い見本になってくれている」と称えていた。
“練習は嘘をつかない”かどうかを試す「アーリーカップ」。努力してきた最初の証として、3大タイトルのひとつであるアーリーカップ初代王者の称号を勝ち獲らねばならない。
文・写真 泉 誠一