新しく指揮官に就任したフリオ・セザール・ラマスヘッドコーチが率いる男子日本代表チーム対ウルグアイ代表チームの国際強化試合が7月29日、30日、青山学院大記念館(東京都渋谷区)において行われた。ウルグアイは国内初のNBA選手となったエステーバン・バティスタを柱に、外からはブルーノ・フィッティバルドを筆頭とした精度の高いシュート力を誇る南米の強豪。FIBAランキングは日本の48位に対し26位と格上であり、新体制となって日が浅い日本がにとってかなり手ごわい相手であることに間違いなかった。
第1戦はスタートから日本にミスが目立ち、1クォーター終了時点で14-25と二桁のリードを奪われる。が、そこからディフェンスを立て直し、一時は2点差まで詰め寄る場面もあったが、もったいないフリースローのミス(12/26)も響き、1度もリードは奪えないまま69-79で敗れた。しかし、翌第2戦は前日の反省を踏まえ、日本は立ち上がりからアグレッシブなバスケットを展開する。第1クォーターこそ16-17とリードを許すが、その後は全てのクォーターでウルグアイのオフェンスを14点以下に抑え72-57で快勝した。日本代表チームの指揮官として記念すべき初勝利を飾ったラマスヘッドコーチは「昨日の試合から学んだものを選手たちが修正してしっかり臨んでくれた」と選手たちを労いながら「私たちはまだスタートしたばかりのチーム。私たちはこうした試合を通してチームの現状を知る。いろいろな課題が見つかったこの2試合は(チームにとって)収穫しかない」と力強く語った。
新生AKATSUKI FIVEの選手たち
#7篠山竜青
ラマスヘッドコーチが「今、最も好調な選手」と言う篠山は、第2戦、2クォーターにコートに出ると激しいディフェンスでウルグアイを揺さぶり、攻めては3ポイントシュート2本を含む8得点をマークして大きく流れを引き寄せた。「2クォーターは相手を14得点に抑えたディフェンスがよかった。そこからオフェンスの流れもよくなっていったように思う。自分の出来がどうこうというより(敗れた)1戦目の課題を修正して全員で臨めたことが結果につながったと感じている」
#6比江島慎
1戦目の立ち上がりの悪さを「スタメンとして責任を感じている」と語っていた比江島だが、「今日は最初から激しいディフェンスを見せられた」という第2戦では自身も積極的にペイント内に切れ込み『らしいプレー』でチームを活気づけた。途中、激しいコンタクトから眉間を切るアクシデントに見舞われたが、再びコートに戻ったあともアグレッシブにゴールに向かいゲームハイの16得点をマーク、この日のMIP(最も印象に残った選手)にも選出された。
#2富樫勇樹
ターンオーバーが目立ち、重い立ち上がりが敗因の1つとなった第1戦。試合後に「チームとしての理解度を含めまだまだ課題は多い」と語っていた富樫だったが、2戦目には出だしから気合いの入ったプレーでチームを牽引した。スピーディなボール運びからリズムを作り、隙あらば放つ3ポイントシュート、果敢に攻めこんでのフローターシュートなど、持ち前の『攻め気の強さ』も見せつけた。勝利した日は24歳の誕生日であり、チームメイトから胴上げで祝福される一幕も。
#34小野龍猛
第1戦目では出番はなかったが、第2戦ではスタメン出場。「理由はわからないが、チーム自体がまだ新ヘッドコーチの下でスタートしたばかり。そんな中でどんな場面でも自分の仕事ができるよう準備はしっかりしておきたい」と語る。求められるのは3番、4番の仕事。この日は得点こそ3ポイントシュート1本だけだったが、ウルグアイの強力なインサイドを抑える役割に大きく貢献した。
#24田中大貴
ベンチスタートとなった第2戦でも常に積極的にゴールに向かい、中でも篠山のパスを受けて一気に攻め込んだ1本は場内大きく沸かせた。「自分や(比江島)慎や馬場にはどんどんペイント内にアタックする役割がある。日本は1回のドライブや1対1でそう多くの点数は取れないので、何回も何回もアタックすることが大事。ピック&ロールでも1回、2回、3回と繰り返しやることで必ずズレができてくると思うのでそういう粘りを大切にして戦っていきたい」
#8太田敦也
今年33歳の太田は同期の竹内公輔とともに206cmのセンターとしてゴール下で身体を張った。「相手のインサイドをいかに抑えるかが今日(第2戦)の1番のキーだった」という言葉どおり1戦目に21得点マークした#15エステーバン・バティスタ(206cm・125kg)を13点に抑えたことが日本の勝因につながった。「ウルグアイのフィジカルは強かったがあれが世界のスタンダードとして我々センター陣は戦っていかなければならない」
#25古川孝敏
第1戦では3ポイントシュート3/4を含め13得点、ディフェンスでも武器とも言えるアグレッシブさを発揮したが勝利には届かなかった。「チームとしてまだまだ追求していかなければならないことがある。ディフェンスならもっとコンタクトしていくとか、オフェンスだったらもっとしっかりスクリーンをかけるとか、そういった細かいところをやり切ることでこのチームはこれからさらに上に行けるはずだと思う」
#88張本天傑
6月に長野で行われた東アジア選手権では思うようなプレータイムが得られず悔しさを味わったが、今回は第1戦に22分を超えるプレータイムを得て躍動。周りを生かすアシスト4本も光り、この日のMIPに輝いた。自身は今回の代表入りを「不参加の(竹内)譲次さんに譲ってもらったもの」だと考えている。だが、それも1つの大きなチャンス。「選ばれた以上東アジアの悔しさを晴らすためにも全力で自分のバスケットをアピールしていきたい」
#35アイラ・ブラウン
第2戦ではファーストシュートとなる3ポイントを鮮やかに沈めて歓声を浴びた。内外で高いポテンシャルを発揮するオールラウンダーだが、とりわけ図抜けた跳躍力を生かしたリバウンドでチームを救う場面は少なくない。この2連戦はともにチームハイの9本をマークしてゴール下での存在感を示した。周りを明るくする陽気な性格と合わせて、コートの内外でチームのキーマン的役割を担う。
#10竹内公輔
第1戦の出場時間は9分44秒、第2戦は18分37秒。だが、時間の長短に関わらず竹内が今のチームにとって不可欠な存在であることに変わりはない。1戦目にウルグアイに与えたインサイドでの得点を阻止すべく「中で気持ちよくプレーさせない」ことが鍵となった2戦目ではより激しいボール争奪戦に身を挺した。単に206cmの高さに頼るだけではなく、日本のセンターとしての経験値の高さも竹内の武器。竹内譲次が不在の中、かかる負担は小さくないが、その分寄せられる期待は大きい。
#0橋本竜馬
今大会、橋本の出番は第1戦の7分58秒のみ。本人にとってはやや不本意な2連戦だったかもしれない。それでもコートに出たときのアグレッシブなディフェンスは強く印象に残り、篠山とのツーガードも新鮮だった。コートに立てなかった2戦目ですらベンチから仲間を鼓舞する声は途切れることなく「どの場所にいても自分がするべきことは全力でやる」という橋本のブレない姿勢を表していた。
#18馬場雄大
メンバーチェンジで名前が呼ばれると会場が大きくどよめいた。それは観客が馬場に寄せる期待の大きさを示すものと言えるだろう。だが、それに反してダンクの失敗、そこからのターンオーバーなど「もっとできる、もっと見せたいという気持ちが先走ってしまった」と振り返る。「メンタルの部分がまだ追いついていない。そこはもちろん成長していかないといけないが、ミスを恐れていたら何も始まらない。ミスを恐れることなく、トライしていくこはこれからも忘れたくないと思っている」
#36サンディー
サンロッカーズ渋谷が誇る白クマのマスコット。性格は明るくていたずら好き。特技はキレのいいダンスとローラースケート。今大会の舞台が渋谷のホームである青山学院大記念館ということで特別に日本代表チームの一員に選出された。愉快な愛されキャラとレベルの高いパフォーマンスで会場のムードを盛り上げ、選手に負けないほどの拍手を浴びた。
「今ある、自分たちの力を最大限に発揮しよう」(ラマスヘッドコーチ)
ラマスヘッドコーチの就任により日本が目指すバスケットのスタイルも変化した。篠山竜青は言う。「たとえばディフェンスに関して言えば前任のルカ(パヴィチェヴィッチ)コーチは少ない人数で守っていきたい。ピック&ロールでも2対2で守り余計なヘルプを使いたくないという考え方だったが、ラマスコーチは全てのプレーに対して5人全員で守ろうという考え方。オフェンスに関して言えばピック&ロールを重視していたルカコーチに対しラマスコーチが求めるのはパスで崩していくスタイル。個々がボールを持つ時間をいかに少なくしていくかを重視するバスケットになった」
8月8日~8月20日までレバノン・ベイルートで開催されるFIBAアジアカップ2017に向けて選手たちがラマスヘッドコーチの求めるバスケットにどこまでアジャストしていけるかが鍵になるのは間違いないが、準備する時間は非常に短い。しかし、選手たちから聞こえてくる声は思いのほか明るく、その言葉からはラマスヘッドコーチへの信頼感が感じられた。
「ラマスコーチは選手のモチベーションを上げるのが非常にうまい。気さくで話しやすく、選手と同じ目線に立ってくれるので練習の雰囲気もとても良いものになっている」(田中大貴)
「ラマスさんになって4番のポップなプレーが増えたというか、そこから次のプレーに発展しやすいし、ドライブもしやすいので、自分としてはやりやすく、相性がいいコーチだと感じている。やさしく、おもしろく、可愛く、人間的にも魅力がある人」(張本天傑)
「ラマスコーチを一言でいえば『気のいいおっちゃん』と言う感じで、選手とも積極的にコミュニケーションをとってくれるので、チームのムードはとても良くなっている」(篠山竜青)
「ラマスコーチの下、練習からみんなが1つの方向に向かっているのが感じられ、とてもいい雰囲気の中でバスケットができていると思う」(古川孝敏)
そのラマスヘッドコーチが語る選手たちの印象は「全員が礼儀正しく、頭が良く、やるべきことをやる勤勉さを持っている」――そして、その選手たちとともに目指すのは「日本の選手たちのバスケットIQの高さを生かしたバスケット、この先の道のりはまだ長いが、今は日本の選手たちが持つ長所を最大限に発揮させることを考えて戦っていきたいと考えている」
7月に開催されたFIBA女子アジアカップにおいて女子日本代表は見事に大会3連覇を達成した。選手たちの口からも「男子も負けていられない」「次は男子の番」という前向きな言葉が相次ぐ。「今ある自分たちの力を最大限に発揮しよう」というラマスヘッドコーチの言葉をチームの旗印として新生AKATSUKI FIVEは7月31日にスペインに向けて旅立った。ヨーロッパの強豪チームと練習試合を重ねた後、ベイルート入り。8月1日より始まるFIBAアジアカップに挑む。
文・松原貴実 写真・安井麻実