優勝を目指した「東アジアバスケットボール選手権大会2017(以下、東アジア選手権)」で、日本は3位に終わった。1週間前までBリーグがおこなわれていたこともあり、それを仕方ないと見る向きもあれば、敗れた準決勝から1日でカムバックし、中国との3位決定戦を制したことを前進と見る向きもある。その一方でやはり、なぜ勝てないのかと憤るファンがいるのも事実。さまざまな思いが交錯しそうな東アジア選手権だが、戦った選手たちは今、どう思っているのだろうか。竹内譲次はどう感じているのだろうか――。
2016年7月、セルビア・ベオグラードでおこなわれた「FIBA男子オリンピック世界最終予選(以下、OQT)」で竹内は自身の「通用しないところがわかった」と発言していた。それを引いて、今年4月、日本代表候補合宿を重ねていた竹内に、OQT以降、世界で戦うためにどこを磨いてきたのかを聞いてみた。すると竹内はこう言った。
「OQTを経て、取り組みたいと思ったことは確かにあります。ただルカ(・パヴィチェヴィッチ)というディフェンシブなヘッドコーチに替わったことで、自分の意識もディフェンスに重きを置くようになりました。OQTで出た課題というのはオフェンス面が多かったんです。一方のディフェンスは1対1で守るというより、ゾーンを使ったりしてチームで守ることのほうが多かった。もちろんルカもチームとして守るという考え方も持っていますが、それだけじゃなくて1対1の守り方や、2対2の守り方など、そこまで細かく指導してくれています。ですから、今はどちらかといえば、いかにルカの求めるディフェンスの哲学をコートで表現できるかを意識しています」
OQTで自らが感じ取ったこと、伸ばすべきことはそれとしてあるが、まずは現ヘッドコーチのバスケットを最優先して体現しなければいけないというわけだ。もちろんそれを否定するつもりはない。むしろ日本代表の選手とはそうしたある種の器用さがなければ、代表選手でありえない。自分がオフェンスを伸ばしたいからといって、ヘッドコーチの求めるディフェンスを疎かにするようであれば、チームに残れないのは当然である。その点でいえば、竹内の選択は正しい。
「まずはルカのバスケットを一番に考えて、それを遂行しながら、そのなかで自分のできることをプラスαとして出していこうという思いですね」
ただ結果論だけでいえば、オフェンシブな考え方を持つ長谷川健志前ヘッドコーチと、ディフェンシブな考え方を中心に置いて、東アジア選手権を率いたパヴィチェヴィッチヘッドコーチのバスケット観の違いは竹内を大きく苦悩させていたように思える。起用のされ方が異なり、東アジア選手権では最長で19分15秒(マカオ戦)、最短で10分2秒(チャイニーズタイペイ戦)と、竹内がコートに立っている時間はけっして長くなかった。得点も4試合で21得点に留まっている。数字に表れにくい、パヴィチェヴィッチヘッドコーチが求めるディフェンスで及第点を得たとしても、竹内自身がプラスαとして出していきたかったオフェンスは、やはり物足りない。
Bリーグがスタートした昨シーズン、竹内は日立サンロッカーズ(現サンロッカーズ渋谷)からアルバルク東京へ移籍した。リーグの新たな出発に際して、自分自身も新たな環境でよりよい選手を目指したいとその道を選んだ。むろん容易な決断ではない。実際、アルバルク東京でも“壁”にぶつかったと認める。
「チームが変わって、自分に求められることも変わっています。ただ僕は、自分に求められることだけじゃなくて、先ほども少し触れましたが、自分ができることをプラスαしてやっていきたいと思うんです。それがなかなかうまくいっていません。もちろん一番はチームの勝利で、そのためにプレーするのは当たり前のことなんですけど、それと同時に自分の才能をコートで表現していかなければ、自分はプレーヤーとして衰退していくんじゃないかと思うんです。そういうプレッシャーを持ちながら、チームのためにプレーするときに自分がすべき一番よい選択は何なのだろう? という葛藤があるんです。もちろん何が正しいのかなんて誰にもわからないから、自分が正しいと思うことをやろうと思うんですけど、やはりバスケットはチームスポーツなので、自分が思う正解とチームが思う正解は必ずしもイコールじゃないときがあるわけです。そう考えると自分自身のプレーに踏ん切りが悪いなと思うことがあるんです」
確かに心機一転、より高みを目指して臨んだはずのBリーグで、竹内の生き生きとした姿が見られないときはあった。むろんチームの第一オプションは彼ではない。そんななかで求められることを遂行し、そのうえでプラスαを加えたいと考えたが、それをどう出していけばよいのかが、見つけられなかったというのだ。
「ただ今回の合宿でルカが、自分のそうした状況を理解してくれたのか、リーグ中に踏ん切りの悪さが見えたのかわかりませんが、いろんなアドバイスをくれたんです。それで少し気持ちが楽になりました」
その1つが“準備の必要性”だった。
「ルカはことあるたびに『準備をしなさい』と言います。シュートを打つ準備、ディフェンスをするためのスタンスなどの準備、そうしたさまざまな準備についてすごく言われていて、『準備をして、しっかり遂行すれば、たとえ失敗してもOKだ』とまで言うほどです」
竹内自身はプレーの先の先まで考えすぎたり、単にそのプレー自体ができていないこともあるかもしれないと認めながらも、パヴィチェヴィッチヘッドコーチが説く“準備の必要性”について深く納得していると言っていた。
しかし“納得”と“体得”は似て非なるもの。東アジア選手権での竹内は、やはり考えすぎているのか、プレーができていない不安からなのか、それとも別の理由からか、どこか踏ん切りの悪さを感じさせた。チームの根幹であるディフェンスでも、自らが出したいと考えるプラスαの面でも、どこをどこまで“準備”していたのかが見えづらかった。もちろん準備はしていただろう。しかしそれを強く意識するあまり、元の木阿弥、踏ん切りの悪さを別の角度から引き出してしまったようにも思える。つまり“意識”はときに良薬となり、ときに毒にもなりうるというわけだ。
7月以降、男子日本代表はフリオ・ラマス氏をヘッドコーチとして迎え、これからは彼のバスケット哲学が中心となる。竹内が代表選手として輝くためには、その哲学を中心に置きながらも、OQTで得たオフェンスの課題に取り組み、パヴィチェヴィッチヘッドコーチに学んだディフェンスと、プレーに対する心身ともの準備を実践する必要があるのではないか。経験豊富なベテランだからこそ、さまざまなことに思いを巡らせることができるのかもしれない。しかしそれが自分自身の足かせとなることもある。日本が誇る207センチのオールラウンダー、竹内譲次はこんなところで立ち止まるべきではない。
文・三上太 写真・安井麻実