弊誌8号の表紙を飾ってくれた秋田ノーザンハピネッツの田口成浩選手は、小学校時代は野球少年だった。野球好きな父から「お前は野球をやるんだ」と幼い頃から言われていたことで田口選手自身も「やらなければいけない」という気になる。野球部に入部できる小学4年になるまでの間、「体力作りのためにやってみたらどうだ」と父が背中を押したのは、先に姉が始めていたバスケットボールだった。
バスケットを始めたのも束の間、晴れて小学校4年生となったことで本格的に野球を始める。「4番でピッチャー」と父の期待に応える活躍を見せた。しかし、体格の変化とともに徐々に見る影がなくなっていく。
「中学校になったら急に太ってしまって足も遅く、動きも遅くて打てなくなり、最後の試合には出られなかった」
真剣に野球に打ち込む反面、昼休みには遊びでバスケットをしていた。野球での壁にぶつかった中学3年時、「バスケットをやろう」と心に決め、高校から本格的に取り組み始める。それからの苦労や田口選手自身の才能については、本誌で紹介した通りだ。
2001年MLBドラフトにてカンザスシティ・ロイヤルズに8巡目9位指名されたブラウン選手
田口選手とともに、3Pシュート特集時にインタビューをしたサンロッカーズ渋谷のアイラ・ブラウン選手もまた野球がバックグラウンドにある。インタビューを行う前から、ブラウン選手が『メジャーリーグでドラフトに指名された』という噂は耳にしていた。実際に話を伺うと本当のことであり、当時のスタッツもしっかりと残されている。さらに調べると、2001年MLBドラフトにてカンザスシティ・ロイヤルズに8巡目9位指名。そのブラウン選手よりも後となる11位に指名されたドン・ケリー選手は、昨シーズンまでフロリダ・マーリンズでイチロー選手とともにプレーしていたようで、やっぱりすごい!
3Pシュートなどのシュートタッチとピッチャーとして白球を投げるときの指の引っかかりなど相通じるものがあるのかなぁ、と野球初心者の素朴な疑問を投げつける。「マウンドに立って投げるのと3Pシュートは全く別物であり、思いつく利点は思い浮かばないよ」とブラウン選手は大笑いしていた。同じ質問を田口選手にするとマジメな答えが返ってきた。
「指先に関しては相通じるものがあるのかなと思いますね。最後のタッチは野球も指先の引っかかりとかが重要になってくるので、その部分では似ているところはあると思います」(田口選手)
ブラウン選手に笑われたことを打ち明けると、「もう、あのクラスになると感覚の問題になってくるのかもしれないですね」と次元の違いをともに納得。田口選手は以前からブラウン選手のことを尊敬していた。お互いにバックグラウンドとしてピッチャーだった共通点を知ったことで、「あらためてアイラが好きになりました。野球をやっていたという話は知らなかったです」。次に会う機会があれば、野球話に花を咲かせて欲しいものだ。
野球で鍛えられた頑丈な身体
シュートタッチに関するメリットについて、ブラウン選手には笑われたが、2つのスポーツを両立してきたことで得られたことは少なからずあった。
「野球は肩と肘を使うスポーツというイメージがありますが、野球からバスケットへ転向して役立っていることは下半身の強さです。ピッチャーにとって下半身がすごく大切ですし、野球で鍛えられたその基礎の部分は今も役立っています」(ブラウン選手)
あの頑丈な身体は野球がベースになっているわけであり、それは田口選手も同じこと。ブレない身体でキレイな弧を描き、3Pシュートを決めている。
弊誌発刊後、車椅子バスケットの若きシューター古澤拓也選手にお話を伺った際、これまた野球出身だった。3Pシュートとベースボールの因果関係に何があるのか!? 今後もシューターのバックグラウンドにあるスポーツを知りたくなった。
文・写真 泉 誠一