逆転ブザービーターによる劇的な幕切れとなったSOMECITY 2014-2015 THE FINAL。頂点に立てるのはいつでもたった1チームのみ。煌びやかなファイナルの舞台において、多くのチームが悔しい感情を抱いて去りゆく。次のチャンスは1年先となり、その道は長く、そして険しい。
今後が楽しみなOSAKA「零」(零#4DAIKI)
OSAKA 1stを制した零は46-27で青森代表BLUE EDITIONを下し、同2ndチャンピオンPIECESは3×3 PREMIER.EXE 2014 MVPシューターのKOHEY(川上航平選手)擁するUNITE KANAZAWAを69-40で破り、大阪勢はワンサイドゲームで幸先良いスタートを切った。SOMECITY OSAKAも着実に歴史を築いており、そろそろ日本一に立って欲しいという期待値は高い。大阪の両チームが盛り上げていく準々決勝。しかし結果は、零 34-38 TOKYO BEAST、PIECES 41-43 GENKI。両チームとも惜敗し、早々に散っていった。
「もっとできへんだろうと思ってました」
3Pシュートを次々と決め、追い上げる原動力となった零#4DAIKIは、「できるなという自信の方が強いかな」と前向きなコメントを残す。ロスター、そして会場で配られたプレビューには「202cmの現役カレッジボーラー#12SOW……」とあるが、ファイナルにその姿は見あたらない。SOWとは近畿大学のシェリフ・ソウ選手であり、カレッジバスケの新シーズンを控えるこの時期での出場は叶わなかった。
それでも、「元々は今回のメンバーが主力となって零を作り、SCDL(下部リーグ)で3年くらい戦っていたので、SOWがいなくても、おらんなりの戦い方はできると思っていました。大阪から来てくれたファンの人たちに、今日の零は昔の零みたいでとても良かった、と言ってもらえました」と、魅了することはできた。ドライブ、アウトサイドとともに、「合わせのプレイが零のメンバーは好き。タップパスをOSAKAでも主として使っていたので、今日も何本か見せられて良かったです」と話すように、コンビプレイから生まれるグルーヴ感が見ていて楽しかった。来シーズンはTAKOYAKI BOYZが戻って来るOSAKAは混戦必至。
「この経験を1stシーズンからしっかり出し、そこで優勝してしまって、またこの舞台に帰ってきます。とても良い経験になりました」
ラストプレイの選択肢(PIECES#11HAZE)
41-43。3Pシュートラインより外側にある四角い起点から、これまで何度も#11HAZEはロングシュートを決めている。2点を追いかけるPIECESのラストプレイ。一気に逆転を狙うのではないか…そんなシナリオを勝手に描いていた。しかし、HAZEが選択したのはドライブ。そのまま得点を狙えたように見えたが、次の選択肢は#19MASARAへキックアウト。そのプレイはうまく合わず、シュートを打てないまま2点差に泣いた。HAZEにラストプレイを振り返ってもらおう。
「あの時は3つの選択肢がありました。自分で行くパターンと、ホンマは僕がドライブで行って#8TOMがフリーだったら3Pシュートを打たそうと思っていました。でも、ディナイされてしまっていてそれが消え、僕が行くか、#19MASARAのミドルまたは合わせ。前のプレイでMASARAのバスカン(バスケットボールカウント)を取れていたイメージが残っており、ギリギリまで溜めようと思っていたら、#22YASU(GENKI)が全然カバーに来ず…。僕もシュートからパスの体制に切り替えてしまっていたから、“あっ、打たれへん”となってパスがギリギリになってしまい、MASARAも準備できてなくて中途半端な最後のプレイになってしまいました。僕がシュートを打っても良かったし、全然打てたと思います。でも、あそこで打つと残り3秒あったんです。3秒守るよりは、合わせプレイを決めて終わらせ、延長に行った方が良いという浅い考えであり、メッチャ中途半端なプレイになってしまいました。最後は判断ミスですね」
残り時間は定かではないが、10秒は無かっただろう。その間にいろんな選択肢を頭に巡らせていた。HAZEの武器でもあるオフェンスセットからの3Pシュートは選択肢になかったのだろうか?
「相手も3Pシュートを狙ってくると思っていたらしく、僕は同点にして延長になれば普通に力の差で勝てるという考えがありました。延長で良いや、ということで僕の3Pシュートはまず最初に消しました。ドライブも行けるだろうから、まずは2点を獲りに行ったんです。最低限のプレイを選び、勝ちに行くプレイでは無かったのがダメだったんですかね…」
様々なことを考えていたが、常に先を読み過ぎていたことが裏目に出てしまった。
「途中、僕がシュートを落としすぎてしまい、集中し切れてなかったのかなぁ。僕の中ではGENKI戦より、次のF’SQUAD戦のことを考えてしまっていたんです。ちょっと調子に乗っていたのかもしれないし、全てが集中し切れてなかったんですね」
来シーズンへ向け、再出発と言いたいところだが、敗れたばかりで気持ちは重い。
「また1年後かぁ……。あと一歩というところでSOMECITYではトップに届いていないので、まだまだ弱いチームです。とりあえずモチベーションが維持できるかどうか。ファイナルに出るとなればみんなもやる気が出て、勝とうとなるんですけどね。また1からとなると難しいです」
ものともしない実力をつけて這い上がる(GENKI#22YASU)
準決勝1試合目はこの日唯一、退屈な試合だった。後半開始早々に10点リードを許し、追いかけるTOKYO BEASTがファウルゲームをするものだから、試合は長引く。#27SHIBATAがきっちりフリースローを決め、SIMONが決勝へ駒を進めた。
準決勝F’SQUAD vs GENKI戦は打って変わって、目が覚めるような熱戦となり、あっという間に前半8分が終了。YASUがインサイドを押し込み、アウトサイドシュートも決まって16-13とGENKIがリード。後半開始早々、F’SQUAD#91KYONOSUKEの3Pシュートで試合は振り出しに戻る。GENKI#1TSUYOSHIのAND1プレイでリードを奪い返しながら、GENKIが辛うじてリードしゲームは進む。残り1’12、勢いに乗るKYONOSUKEが3Pシュートを沈め、30-29とF’SQUADが土壇場で逆転。さらに#7K-TAがドライブを決め、3点リード。残り12秒。YASUが得点を挙げたが1点及ばず、31-32でGENKIは決勝に届かなかった。
「正直、今日のF’SQUADは調子が良いとは言えなかったので、それに対して結局は勝ちきれないのはまだまだなのかなぁ」
様々な悔しい感情を押し殺すように、YASUは話してくれた。“牛魔王”の異名通り、デカいガタイを持つYASUに対するマークは手荒くなる。フラストレーションを溜め、レフェリーに詰め寄る場面もあっただけに、「やっぱり思うところはいろいろありますし、地方としてはそのあたりは健全にやっていきたいと思います」。
今シーズンよりSENDAIは、6チームが凌ぎを削り合うリーグ戦が始まり、杜の都からSOMECITYを盛り上げている。リーグ戦を通じて、GENKIはさらに強くなれる舞台を得た。
「いろんなことに対し、ものともしないような実力をつけて勝てればベストですね」
楽しかった。これからが楽しみ(SIMON#7ASANO)
劇的な瞬間だった──残り1秒28。
F’SQUADのラストプレイ。K-TAが右側から切れ込み、タフショットをねじ込んだ。歓喜の瞬間が訪れる直前、目の前を大きな壁が立ち塞ぐ。正確にはSIMONのベンチメンバーが立ち上がり、壁のようにゴールの瞬間は視界を遮られてしまった。
終始SIMONがリードし、後半立ち上がりは、SHIBATAと#7ASANOによる4連続得点を挙げ、さらにSHIBATAからのパスをうまく合わせた#20KAWATEのゴールで23-12とSIMONが11点リード。残り時間は3分しかない。準決勝同様、F’SQUADの窮地を救う突破口を切り開いたのは#91KYONOSUKEだった。3Pシュート、ドライブと2分間で10点を挙げ猛追。残り37秒、#27DAIKIのゴールで24-25と1点差に迫る。逆にSIMONはASANOの得点を最後に、約2分間得点を挙げられないまま、悪夢のブザーを聞くはめとなってしまった。
「チームとしてはヘルプローテーションがやっと形になってきたところです。ディフェンスもオフェンスも良い形ができつつあるので、これからが楽しみです」
思いの外、サバサバと答えるASANO。そこに悔しさは感じられない。
「そうですね。タイムアップのブザーも鳴ってましたしね(笑)。いいんじゃないですか、楽しかったし」
以前、国際的に活躍されるレフェリーに聞いたことがある。ゴールに向かう流れに入っていれば、コンマ何秒かでボールから手が離れているかどうかは関係なく、ブザービーターになり得る、と。その瞬間を見ていないので何とも言えないが、際どい判定であったに違いない。抗議をしても誰も咎めない状況だった。しかし、潔く負けを認め、足早にコートを去るSIMONの姿に男気を感じた。
あらためてASANOに試合を振り返ってもらおう。
「SHIBATAと僕のラインができあがってきたので、そこを中心にしながら1on1や合わせプレイをどんどん仕掛けていこうと思っていました。3Pシュートを決められた部分もありましたが、途中のオフェンスで少しガマンできなかった。オレがインサイドでもらって時間を使って攻めたり、イン&アウトでカウンターでも良かったんじゃないかな……と、結果論ですけどね」
憧れていたストリートボール
補足しておくと…ASANOとはつくばロボッツが経営破綻した後、そのまま引退した浅野 崇史(専修大学〜埼玉〜京都〜つくば)だ。
「やっぱりNBLに対しての不満というか、なんかカッコ良くないな、と。オレの中でプロ選手はカッコイイ存在だったのに、そのイメージが変わってきてしまい、楽しくなくなっていました。そもそも昨シーズンで辞めるつもりでもいたので、今回の事件が良いきっかけだったのかな」
カッコイイ存在だったプロ選手以上に、ASANOが高校時代に憧れていた世界、それがストリートボールだった。
「高校生の頃、FAR EAST BALLERSを見て、カッコイイと思っていました。青木康平さんやクリスさんらの試合を観て、こんな楽しいバスケがあるのかと思っていたし、そこでやりたいと思っていました。だから、SOMECITYは次に戻らなければいけない場所でした。2ndシーズンは入替戦に回ったけど何とか死守でき、居場所を守れて良かったです」
来シーズンはさらに本腰を入れてSIMONをもう一ランク上に導く。あと一歩で優勝を逃し、「悔しかったのはもちろんありますが、それ以上に収穫がデカかったです。これからのSIMONが安定していくのかなと思っています。来シーズンの優勝を狙うのはもちろんですが、誰が出ても強い、そんな良いチームにしていきたいです。SHIBATAは1stも2ndも両方勝つって言ってました。期待してください」
遊びとは──
SOMECITY 2014-2015は、F’SQUADがチャンピオンとなり、幕を閉じた。
エンディングでは運営に回っているTANAが満員のお客さんに感謝の言葉を述べ、さらに話し始める。
「究極に楽しみたい、遊びたい場所がSOMECITY。優勝した彼らはスーパースターではない。これまでずっと遊んできた結果が、あのワンプレイにつながった。ストリートは自由といわれるけど簡単ではない。でも、クリエイトできる場所。みんなでバスケを楽しもう!」
遊びとは楽しいことばかりではない。悔しさが同居することで向上心が芽生え、壁をクリアしたときの喜びがある。誰もが子どもの頃はそうだったはずだ。今でもふとしたことに負けず嫌いな一面がニョッキリ顔を見せる時がある。仕事であっても、その瞬間は遊びとして楽しみながら苦難を乗り越え、喜びへ変えていきたい。
悔しさを味わったチームたちの努力が、SOMECITYのレベルを上げていく。だからこそ、勝利者インタビューではなく、あえて敗れたチームの声を拾ってみた。2007年12月25日のプレリーグ開幕からSOMECITYは、悔しさと喜びを繰り返しながら、日々成長している。
ファイナルに届かず、真の喜びを勝ち獲っていないチームの方が圧倒的に多い。今シーズンは12都市で開催されたが、まだ見ぬ猛者が集う新たなる都市を巻き込みながら、新しいシーズンはすぐ始まる。SOMECITYの成長は止まらない。
- FINAL
F’SQUAD 26-25 SIMON
☆MVP☆ F’SQUAD#91KYONOSUKE - SEMIFINAL
SIMON 45-24 TOKYO BEAST
F’SQUAD 32-31 GENKI - QUARTER FINAL
SIMON 32-20 ちきゅう
TOKYO BEAST 38-34 零
GENKI 43-41 PIECES
F’SQUAD 41-19 NIRASAKI SPIRITS
泉 誠一